
いくら天然と同じ結晶構造と特性を持っていても、やはり合成宝石は好まれないことが大多数。しかし中には、「えっ、こんな宝石が合成されるの?」と驚きを隠せない合成石が作られたり、天然以上に高額取引される合成宝石も見かけます。
ロシアという大国は色んな意味で話題を提供しますが、実は合成宝石の分野でも知られた存在です。今回のコラムではロシアが製造する合成宝石と、それらが開発された背景を解説します。
ロシアはどんな宝石を合成している?
天然宝石を人為的に製造する試行錯誤は18世紀から行われてきました。ロシアは国家の威信をかけて合成宝石開発に着手してきた歴史があり、「ロシアに合成不可の文字はない」と言っても大げさではありません。
ここでは導入としてロシアがどんな宝石を合成しているのかを見ていきましょう。
ロシアはとりあえず何でも合成する

「合成石」と聞いて頭に浮かぶのがフランス、アメリカ、そしてロシアでしょうか。フランスではベルヌーイが初めてルビーを火炎熔融法で合成することに成功し、アメリカではチャザムやGE社などがその分野では名を馳せています。
しかしどの国もロシアの資金力や技術、そして品質には一歩届かない印象があります。ロシアはダイヤモンド・アレキサンドライト・デマントイドガーネットなどの鉱山を持つ一方で、エメラルドなどの合成宝石についても力を注いできた国なのです。
そして、「これは合成されるような正当派の宝石ではない!」といえるような石もちゃっかり合成するのがロシアという国。宝石鑑別機関でも珍しい合成宝石が出てくると「これはロシア産かもしれないね」とジョークを飛ばすことは決して珍しいことではありません。
ロシア産の主要合成宝石
さて、ロシアはどんな宝石を合成しているのでしょうか?基本はどんな石でも合成させてしまうのがロシアですが、以下のような宝石が挙げられます。
- コランダム(ルビー、サファイア)
- ベリル(エメラルド、モルガナイト、アクアマリン、レッドベリル、バイカラーベリル etc)
- クォーツ(アメジスト、アメトリン、シトリン etc)
- クリソベリル(クリソベリル、アレキサンドライト)
- オパール
- ガーネット(YAG、GGG etc)
- ターコイズ
- ジンサイト
- マラカイト
- フォルステライト
- チタニア(合成ルチル)
- ダイヤモンド
- スピネル
- 酸化ビスマス
- ビスマスナトリウムタングステン酸
宝飾品用に利用できる主要宝石の合成から、聞いたこともない合成宝石まで存在します。世界でも例のない天然宝石の合成に成功したり、需要を見込んで合成したけれど市場にほとんど出ることなくお蔵入りした宝石もありました。
宝飾品加工に適した宝石の場合は、日本を含めアメリカ・中国・タイ・ドイツなど様々な地域に輸出されてきました。ルース収集家の中にはロシア産のレアな合成宝石を集める方もおり、合成石とは思えないような高額な価格で取引されるものもあります。
なお、天然には存在しない人造宝石であるキュービックジルコニアやモアッサナイトの他に、強いカラーチェンジ効果があるナノシタルガラスなどの合成にも力を入れています。
ロシアが合成開発に長けている理由は?

ここではなぜロシアが合成宝石の開発に力を注ぐのか?その核心について解説していきます。
ソビエト連邦にさかのぼる合成宝石開発の歴史
まず知っておきたいのがソビエトという連邦国家です。15の構成国からなる社会主義国家であったソビエト連邦での合成宝石開発は1930年代にまでさかのぼります。
70年代~80年代にはキュービックジルコニアや水熱法エメラルドの合成に成功しており、合成宝石の開発を牽引するようになります。当時のソビエト連邦では多くの学者が「どうすれば結晶をラボで成長できるのか?」というテーマの研究に従事しており、彼らの多くは合成宝石のパイオニアとしても知られるようになるのです。
その1人として有名なのがBoris Vladimirovich Derjaguinです。気体からダイヤモンド粒子を蒸着できることを発見した人物であり、このような合成宝石の先駆者がソビエト連邦で多く活躍していました。
ロシアが合成宝石開発に尽力する理由を考察

さて、ここでなぜロシアが合成宝石の開発に尽力しているのかを考察してみましょう。
- 需要の高いウラル山脈のエメラルドやデマントイドガーネットを合成し、効率的・低コストで市場に提供するため
- 連邦国家が宝石の合成に対して資金を惜しみなく提供していたため
- 軍事、工業利用として利用が可能な宝石の合成を国家が推し進めていたため
- ソビエト連邦という大国のテクノロジーを誇示するため
現在のロシアを思い起こして頂ければ分かりやすいですが、やはり軍需目的で使用できる合成宝石の開発に力を注いだというのが一番シックリくる理由かもしれません。
例えば合成クォーツは光学フィルタやレーザーなどに利用できるため、特に合成に関するノウハウを養ってきた合成宝石の一つです。当時のハイテク頭脳と豊富な資金力のおかげで合成クォーツの開発が可能になり、現代でも家電や時計などに利用されています。
ソビエト連邦が解体して
ソビエト連邦が崩壊したのが1991年ですが、その間に蓄積された宝石の合成技術とマニュアルは継続していきました。
ただし、ソビエト連邦が解体する時には軍事目的利用の宝石の合成が既に可能になっていたこともあり、本来の目的に沿った国内防衛ではなく、より審美性と天然宝石に近い特性を持ち合わせる合成宝石の開発に舵をきるようになるのです。
現在では合成ダイヤモンド、エメラルド、コランダム、アレキサンドライトを筆頭に、パライバ色のベリルなど市場のニーズに併せた合成宝石を開発しています。
まとめ

- ロシアは様々な合成宝石を旧ソビエト連邦時代から製造してきた
- 合成宝石開発の目的は主に軍事、国防目的の一環であった
- 合成宝石のパイオニアと呼べる研究者が合成に従事していた
- 現在も品質の高い合成宝石を提供している
どこの国にも合成宝石が多く利用された時代がありましたが、当時の旧ソビエト圏では大粒の合成アレキサンドライトをセットしたリングやブローチを華麗に身に着けた女性が少なくありませんでした。
合成宝石は天然と同じ美しさを低コストで楽しめる!これが合成宝石を製造する一番の理由と考えてしまいがちですが、実は国を守るという大きすぎる使命感と責任を持って合成宝石が製造されていたとは感慨深いですよね。
合成宝石と天然宝石の棲み分けでジュエリーを楽しむようになった昨今も、ロシアは品質の高い合成宝石を開発、なおかつ需要を見込める宝石の合成にも力を入れています。くれぐれも、人の命を奪うような武器や兵器に転用できるような合成宝石が開発されないことを祈るばかりです。
未来宝飾マガジン編集部 監修
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