赤いコランダムはルビー、青はサファイア、それ以外をファンシーカラーサファイアと呼びますが、今回お話しするのはサファイアのラスボス、パパラチアサファイア。
パパラチアサファイアの価値、美しさは国や文化によって審美評価が異なり、鑑別機関の判定基準が統一されておらず、コランダムの中で扱いが難しい宝石として知られています。
今回はパパラチアサファイアの特徴、判別基準と人気の秘密を解説していきます。
パパラチアサファイアの特徴と色相
ここではまずパパラチアサファイアの特徴と色相を解説していきます。
パパラチアサファイアの特徴
パパラチアサファイア(Padparadscha Sapphire)はスリランカのシンハラ語で「蓮の花」を意味する「padmaragaya」に由来します。その名の通り蓮の花を思わす独特のピンクとオレンジの中間色を見せ、カラーサファイアの中で唯一固有名詞を持っています。
なお2カラット以上の石はレアで、サイズ感を最大限に出すためにオーバル、クッション、エメラルドカットなどに研磨される傾向があります。
化学組成 | Al2O3 |
---|---|
結晶系 | 三方晶系 |
モース硬度 | 9.0 |
劈開 | なし |
比重 | 4.00 |
屈折率 | 1.762~1.770 |
複屈折率 | あり |
多色性 | やや強い2色性 |
ピンク?オレンジ?パパラチアサファイアの色相
蓮の花と言えばピンクにホワイト。しかし蓮の雌しべ雄しべを覗けば、イエロー~オレンジ味を帯びた色合いのパパラチアカラーを想像できるはずです。その色合いはクロムイオン、結晶構造の変化が要因です。
パパラチアは色相の幅が広く、少しの彩度、明度の違いで認定から外れてしまう難度高めのサファイア。基本的にライト~ミディアムトーンのピンクとオレンジが混ざった石がパパラチアカラーと呼ばれますが、実際は茶色や黄色味、パープルサファイアのような色合いを持つ石も少なくありません。
なお非加熱のパパラチアサファイアはマシーシェベリル(※1)やアメジストのように、不安定な結晶構造の欠陥が紫外線に当たることで変化し、退色をすることがありますが、その程度は石によっても異なります。
(※1)自然放射により濃青色に着色されたベリルの一種で退色しやすい。
パパラチアと鑑別される評価項目とは?
パパラチアサファイアは鑑別機関によって評価項目が異なり足並みが揃いませんが、基本的に以下の条件を満たし鑑別書、ソーティング(※2)がなければパパラチアサファイアと認定することはできません。
(※2)小袋に鑑別結果を記したメモが入った簡易鑑別のこと。
万遍ない色合い
テーブル面から見てハッキリわかる色帯や、色の偏りが強すぎる場合は、パパラチア判定が付かない場合があります。また黄色や紫色以外のトーンが混在する石に関しても同様です。
独特の色彩基準を満たす
マダガスカル産 パパラチア サファイア ダイヤモンド K18 リング フルリッテ | BIZOUX|ビズー公式
通常パパラチアサファイア判定には各鑑別機関による、明度、彩度を考慮にしたカラーチャート比較が必須です。濃すぎるピンク、オレンジはNG!などバラつきがあり、ピンク、赤、黄色の色範囲が広い鑑別機関は判定が出やすく、逆の場合は難しくなります。
各鑑別機関によっての判定基準が若干異なり、パパラチアの色にかなり開きが出てくるのがパパラチアの特徴と言えますが、うーん、難しい子です……。
拡散処理なし
パパラチアサファイアは少ない供給で多くの需要を満たすため、加熱石が多く流通していますが、同じ加熱であってもそこに外来元素を添付した拡散、浸透処理が施された石には要注意。
これを「ベリリウム拡散処理」といい、質量、原子半径が小さいベリリウムは、加熱時に石へ浸透しやすい性質があり、ベリリウム拡散処理を施したパパラチアカラーのサファイアは市場に多く流通しています。
その殆どがゴールデン、イエロー、オレンジ系統のサファイアに見られる重度の処理であり、非常に魅惑的なパパラチアカラーを発現します。しかしこれはあくまで「パパラチアカラー」であり、拡散処理の事実がある場合はパパラチアサファイアの認定はされません。
ベリリウム拡散の有無を調べるには、LA -ICP- MS検査(※3)などで、ガードル部分に穴を空け分析をする必要があります。ただし鑑別機関によっては加熱の有無だけでパパラチア判定をする鑑別機関もあります。
(※3)誘導結合プラズマ質量分析のことで、元素分析を通じ宝石の産地同定や人為処理の有無を探知する装置のこと。
もっと詳しく:ベリリウム拡散処理!消費者目線での定義と注意点【パパラチアサファイア】
産地
マダガスカル産 パパラチア サファイア ダイヤモンド K18 リング フルリッテ | BIZOUX|ビズー公式
ピジョンブラッドがミャンマー産以外の産地でも判定されるように、パパラチアサファイアに関してもモンタナ、マダガスカル、ベトナム産などの石も上記基準を満たせばパパラチア判定は出ます。
しかしながら純潔主義と言いますか、スリランカ産のみをパパラチアサファイアと認定すべきという声も根強いのは事実です。
パパラチアサファイア人気の理由は?
パパラチアサファイアはその人気に伴い、2000年代前半から拡散処理を伴う加熱石が出始め、バナジウムやバナジウムを付加したパパラチアカラーの合成サファイアも急増中。またモルガナイト、ジルコン、トパーズ等もパパラチアサファイアと称し、市場に流通されることがあります。
ここでは、なぜサーモンピンクのパパラチアサファイアの市場価値が高騰し、人気を博しているのかを考察していきましょう。
王室メンバーの婚約指輪
この投稿をInstagramで見る
パパラチアサファイアはダイヤモンドに次ぐ硬度として婚約指輪などのブライダルリングとしても人気です。特にその石への関心を呼んだのが、2018年に結婚したイギリス王室ユージェニー王女の婚約指輪。約5カラットの非加熱パパラチアサファイアをセットした婚約指輪は、推定100,000ポンド(約1,500万円)以上の価値があるとされています。
独創的かつ洗練されたパパラチアカラー、そして伝統的なダイヤモンドによる取り巻きデザイン……。ユージェニー女王の婚約指輪のチョイスは一人の女性としての個を表わしていると言われ、各方面でそのセンスにポジティブな評判を呼び、パパラチアサファイアの人気に火を付けたのでした。
広い色幅がクリエイティブなジュエリーデザインを生む
マダガスカル産 パパラチア サファイア ダイヤモンド K18 リング フルリッテ | BIZOUX|ビズー公式
蓮の花に親しみがある日本人はオリエンタルな淡いピンクに一粒のオレンジ色のインクを落としたような雅なカラーを好み、西欧人はビビッドな夕日色を好むといいます。
これこそ文化背景による違いと言えますが、同色に見えてもかなり幅のある色域がゆえ、様々なジュエリーの主役に選ばれ、想像的なジュエリーデザインにとして華を添えています。
まとめ
パパラチアサファイアの特徴をまとめると、
- ピンク~オレンジの中間色である
- 国や文化によってベストカラーが異なる
- 鑑別評価にムラがあり判定が出にくい
- ベリリウム拡散処理の石はパパラチア認定不可
- パパラチアは色範囲が広域である
パパラチアの色範囲は狭いようで広く、少しの明度、彩度の違いで、ブラウンサファイア、ピンクサファイア認定になったり、まさかのパパラチア認定がされたりと……。
なかなか読めないのがその評価基準であり、年代ごとにブラッシュアップされているとはいえ、文化的背景などから色評価に違いが出てくる点は興味深いところです。
しかしながら、その明確な評価基準が統一されていないため、今後はダイヤモンドのようにより鑑別評価が厳格化されるかもしれません。
関連記事
- ベリリウム拡散処理!消費者目線での定義と注意点【パパラチアサファイア】
- 【解説】パライバトルマリンの産地鑑別と見分け方!
- アーガイル鉱山閉山によるピンクダイヤモンドの行方と価値は?
- ベキリーブルーは幻の青いザクロ石?ブルーガーネットの存在を検証
- ゴルコンダダイヤモンドとは?インド産ダイヤのみが見せる特性と戦略
- モンタナサファイアとは?独特のカラーと人気の秘密