博物誌を著したプリニウスは、ダイヤモンドが最大の価値を持つ宝石だと記していますが、その中でも幻と呼ばれるダイヤモンドがあります。
今回は品質、希少性全てにおいて右に出る石はないといわれる、インド産ゴルコンダダイヤモンド(Golconda Diamonds)の秘密と特徴について解説します。
インド産ダイヤモンドの歴史
2000年前にギリシャで作られた指輪には、今も古の輝きを放つインド産のダイヤモンドがセッティングされており、これはゴルコンダダイヤモンドの好例です。
ダイヤモンドと言えばブラジル、アフリカ産を思い馳せますが、実は古代から18世紀まではインドでしか採掘されない宝石でした。インドはジャイプールを例とした宝石が集まる国として知られていますが、ダイヤモンド研磨のシーンでも名を馳せています。
そして宝石としてのダイヤモンドも、インドが栄華を誇り、エジプトのアレキサンドリア港を仲介し西欧へ供給され、宝飾史の1ページを紡ぐことになるのです。
ダイヤモンド特徴
化学組成 | C |
---|---|
結晶系 | 等軸晶系 |
モース硬度 | 10 |
劈開 | 強い |
比重 | 3.52 |
屈折率 | 2.417 |
複屈折率 | なし |
多色性 | なし |
ゴルコンダダイヤモンドの定義と特徴
類まれな透明度と青白い残光を見せ、Dカラーと一言で片づけられないゴルコンダダイヤモンド。ここではその定義と特徴について解説していきたいと思います。
ゴルコンダダイヤモンドの定義
By Ms Sarah Welch – Own work, CC0, Link
ダイヤモンドはブラジル、南アフリカ、ロシアなど様々な国で産出されますが、1725年にブラジルの鉱山が見つかるまではインドでしか採掘されませんでした。
ダイヤモンドの一大産地であったのがゴルコンダ地域一帯(現在のインドのアーンドラプラデーシュ州)で、Rammalakota、Kollurなどは特に有名な鉱山でした。基本的にそれらの鉱山、またはその周辺から採掘されたダイヤモンドをゴルコンダダイヤモンドと定義しています。
ゴルコンダダイヤモンドは類まれな透明度に加えて、黄色味がない、青白い残光を見せる、ほとんどがDカラーのタイプ2aという特徴をもちます。
産地はともかく、これらの条件を満たしていればゴルコンダダイヤモンドとして認識されることもあり、これはしばし「ゴルコンダタイプ」と呼ばれます。
ゴルコンダダイヤモンドのタイプ
ダイヤモンドのタイプには1型と2型があり、それぞれa型とb型の計4タイプに分類されます。前述で少し触れていますが、ゴルコンダダイヤモンド、つまりはインドの鉱山で採掘された石の多くはタイプ2aになる傾向があります。
研究者によってはゴルコンダダイヤモンドの全てをタイプ2aと考えることもあるようですが、それを裏付けるに十分な量の石や検証結果はありません。
ここで補足としてダイヤモンドを理解する上で必要な4つのタイプを復習していきましょう。
タイプ1a
不純物として多量の窒素を含んでいるタイプ。窒素は集合体として存在し、その窒素濃度は1000~3000PPM程度。無色~黄色のダイヤモンドで、紫外線長波下で青色蛍光を示します。なおダイヤモンドの約98%がこのタイプです。
タイプ1b
1aと異なり窒素が単独に存在し、その窒素濃度は10~1000PPM程度。紫外線長波で薄い黄色蛍光を示します。無色~黄色のダイヤモンドで、窒素濃度が高くない場合はカナリーイエローのファンシーカラーを見せることがあります。
タイプ2a
最も希少なタイプで窒素濃度が10PPM以下の不純物がない非常に珍しいタイプ。全ダイヤモンドの1%未満。
タイプ2b
2a同様に不純物がほぼ存在しないタイプですが、ホウ素を含有し、いわゆるファンシーブルーダイヤモンドはこのタイプです。ただし2b全てが青色を呈する訳ではなく、例えば水素が含有するとグレー味を帯びた色合いになります。なおこのタイプは電気伝導性を持つ場合があります。
ゴルコンダダイヤモンドの美的側面
なぜゴルコンダダイヤモンドが評価されるかというと、比較的大きめなカラットで産出すること、そして前述のタイプ2a評価以外にも特出すべき審美性があるからです。
清流のせせらぎを思わす高度な透明度は、ゴルコンダ由来でないDカラー、タイプ2aとは比べ物にならない白さを持つといいます。しばしスーパーDカラー、Cカラーと呼ばれています。
また残光のような、ブルーイッシュカラーが目に映ることもあります。これはゴルコンダダイヤモンド特有のものです。青色蛍光と勘違いする方もいますが、通常タイプ2aは蛍光性がなく、ゴルコンダ以外のDカラーではその青色は感じないため、不思議な視覚効果が見られた場合、それはゴルコンダダイヤかもしれません。
ゴルコンダダイヤモンドがマーケティング手法に使われる訳
ゴルコンダダイヤモンドは例えばルビーのピジョンブラッド、サファイアのコーンフラワーブルーと同じく、その評価を高める要素として多用されています。ここではゴルコンダダイヤモンドを「マーケティング」という観点から考察していきましょう。
ゴルコンダダイヤモンド、つまりパイオニアとしてのインド由来のダイヤモンドは紀元前800年より昔に遡るという長い歴史があります。これらは偉大で宝飾史に残るコ・イ・ヌール、ホープダイヤ、リージェントやサンシー(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)などの供給源であり、同じダイヤモンドでも区別化され、その付加価値を高めてきました。
特にホープダイヤのような死を伴う不吉な伝承は独り歩きし、そのミステリアスさ、高貴さを強調。それはほぼ伝聞による誇張ですが、結果としてゴルコンダの価値を高める宣伝になったとも言えます。一般的にオークションではそのような経歴や伝説などが価値として評価されることがあり、ゴルコンダ産と思われる石、それがセットされたジュエリーは価値が高まることがあります。
それに便乗するのが、サイズ大きめのDカラー、タイプ2aのダイヤモンドです。前述のようにこれらはゴルコンダタイプと形容され、そのゴルコンダタイプが歩んだ産地特定、軌跡は明確にすることはできません。
それでもゴルコンダと頭文字があるだけで、私達の心はときめき、そしてそれを熟知したセラーがゴルコンダタイプと謳い高値で売る。これはジュエリー界隈で珍しくないマーケティング戦略なのです。
まとめ
ゴルコンダダイヤモンドの特徴をまとめると以下のようになります。
- 現在のインド、アーンドラプラデーシュ州にあたるゴルコンダ地域一帯から採掘されたダイヤモンド
- 透明度が抜群に高く、黄色味がない
- ブルーイッシュな輝きがある
- ほとんどがDカラーのタイプ2a
- オークションではマーケティング手法として利用される
しばし古いジュエリーから外され市場に出され、それらの古のオールドマインカット、ポイントカットなどの石を再研磨して売られることも少なくありません。
ビジネスマーケティングに利用される傾向のあるゴルコンダブランドですが、以前クリスティーズでは「The Princie」と呼ばれる約35カラットの石が3930万ドル(約38億6000万円)で落札され、ゴルコンダの根強い人気と浪漫を感じずにはいられない数字に感嘆のため息が漏れました。
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