「知恵の価値というものは、測ることができない。そう、サファイアの美しさ、価値についても同じである。」
こんな言葉が旧約聖書に記されているサファイアですが、多くの産地がある中で昨今その存在感を高めているのがアメリカはモンタナ州から採れるモンタナサファイア(Montana Sapphire)です。
サファイアの中で地名の固有名詞が形容されるレアな宝石、今回はその石の特徴から人気の理由を考察していきます。
前半では包括的なモンタナサファイアの特徴を紹介、後半では宝飾史の観点からも見逃せないヨーゴ産サファイアを解説しながら、その人気、価値を考察していきます。
モンタナサファイアとは?
引用:GIA,モンタナ州ロッククリーク産サファイア:採鉱の新時代が始まる
モンタナサファイアはその名の通り、アメリカはモンタナ州から採掘されるサファイアのことです。モンタナ州にはいくつか鉱山があり、鉱脈によってその色合いや特色が異なります。
産出量が少なく、宝飾市場で影響力を持つには不十分に思えるモンタナサファイアですが、ここではモンタナ州で採掘されるサファイアの特徴、鉱山、そしてその価値について解説していきます。
モンタナサファイアの歴史
モンタナサファイアの始まりは19世紀に遡ります。アメリカ北西部、ゴールドラッシュに沸き、夢とロマンで一攫千金を夢見た時代。
それと同じくして1870年代にはモンタナ州のミズーリ川で青色に輝く石が発見されました。しかしこれらは金採掘の副産物であり、周辺に研磨工場が無かったためにサファイアとしての価値は見出されませんでした。
サファイアの鉱床は主にミズーリ川流域、ドライコットンウッド、ヨーゴ渓谷、ロッククリークの4つのエリア。特に美しい青色の石はヨーゴ渓谷にて発見され、それがティファニー社の宝石学者クンツ博士の目に留まるまで、モンタナサファイアの価値が見出されることはありませんでした。
関連記事:ティファニーのクンツ博士が惚れた宝石クンツァイトとは?その特徴を解説
なお1890年には多くのファンシーカラーのサファイアが産出し、それらは合成サファイアが登場するまで工業用サファイアとして供給されました。
サファイア基本情報
化学組成 | Al2O3 |
---|---|
結晶系 | 三方晶系 |
モース硬度 | 9 |
劈開 | なし |
比重 | 4.00 |
屈折率 | 1.760~1.770 |
複屈折率 | あり |
多色性 | あり |
モンタナサファイアの特徴
引用:GIA,モンタナ州ロッククリーク産サファイア:採鉱の新時代が始まる
コランダム(※1)に属するサファイアは赤色のルビー以外は全てサファイア認定され、色相環の全てを満たすファンシーカラーの宝石が世界中から採掘されています。
(※1)酸化アルミニウム の結晶からなる鉱物。
エメラルド、ルビー同様に地域によって内包物やカラー、カラットなど特徴が異なるサファイアですが、モンタナサファイアは以下の特徴があります。
- 加熱処理が行われる
- 透明度が高く内包が少ない
- 2カラット以下の小さなサイズ
- ファンシーカラーの色相が多く産出
- アメリカ国内で人気が高い
- ルビーの産出が少ない
モンタナサファイアは同じ州内でも産出場所によって特色が異なります。特にヨーゴ渓谷で採掘されるものは「ヨーゴ産サファイア」として別格の扱いとなるため、上記の特徴にはあてはまりません。詳しくは次の章で解説します。
トレンドのバイ、トリカラーサファイアを牽引!
宝石には時代時代のトレンドがありますが、昨今注目を浴びているのが「希少性」そして「ユニークさ」を持つエシカルストーン。また2021年の流行色の一つとして挙げられるのは希望を表す明るいイエロー。
そんな流行性を汲んだ宝石として挙げられるのがモンタナサファイアです。モンタナサファイアはイエロー、ブルー、グリーンのバイカラーや、トリカラーが多く、各々のトーンが境界を経てドラマティックに共存しています。
これは環境の差異などが原因で、結晶の成長毎に取り込む微量元素(バナジウム、鉄、チタンなど)が不均一になることで生じる現象です。
なお混同されがちなティールサファイアは色に境界がなく混ざりあうもの、多色性は角度によって見える色合いが異なるものを指すため、混同しないようにしてください。
ヨーゴ産モンタナサファイアとは?
引用:GIA,モンタナ州のYogo(ヨゴ)渓谷から産出されるサファイアの珍しい宝石学
前項でヨーゴ産サファイアについて軽く触れていますが、こちらはモンタナ州の中のヨーゴ渓谷で採掘されるサファイアのことです。ヨーゴ産サファイアは同州の他鉱山とは異なる特徴を見せ、特に美しい青色を見せることで知られています。
ヨーゴ渓谷で取れた石は「ヨーゴ産サファイア」または「ヨーゴサファイア」などと呼ばれ、モンタナサファイアとは別けて扱われます。通常「モンタナサファイア」とはヨーゴ産以外のサファイアを指し、ヨーゴ産サファイアは含みません。
ヨーゴ産サファイアの特徴
引用:GIA,モンタナ州のYogo(ヨゴ)渓谷から産出されるサファイアの珍しい宝石学
ヨーゴ産サファイアは他のモンタナ州における鉱山の石と異なる特徴を持つことで知られています。その特徴を見てみましょう。
- ブルー系が98%、残りの2%がバイオレットカラー
- 大部分のブルーサファイアがコーンフラワーカラー
- 加熱処理が行われない
- カラーゾーニング(※2)がない
- ルチルによる針状インクルージョンが見られない
- 0.5カラット程度の石が産出
- ヨーゴ渓谷での採掘は終了し資産価値がある
(※2)宝石内の不均一な色分布のこと。宝石の結晶が成長する長い過程の中で、外部環境の変化などが起こり、取り込む微量元素の種類や濃度が異なることで生じます。顕著な例としてサファイア、トルマリンなどが挙げられます。
基本的にヨーゴ産サファイアはモンタナサファイアの中でも、別格の品質があります。価値はカシミール、ミャンマー産に及びませんが、既に枯渇していること、加熱処理がなされないことから、今後はより人気が高まることが予想されます。
ヨーゴ産サファイアとダイアナ妃
宝石、ジュエリーの価値を高める要素として伝説や噂、過去の所有者が価値に加味されることがあります。ヨーゴサファイアに関してもまことしやかな噂が流されたことも……。
1984年にヨーゴ渓谷の鉱山を所持していた某氏は、ダイアナ妃が選んだガラード社の婚約指輪はヨーゴ産のサファイアが利用されたと伝播。コーンフラワーを思わせるそのカラーは無処理のヨーゴ産の特徴に見えますが、この信ぴょう性は低くなっています。
それでもヨーゴブランドの知名度を高めることに寄与し、マーケティング面ではある程度成功を収めた形になりました。
まとめ
モンタナサファイアの特徴をまとめると以下のようになります。
- 1870年代に金採掘の副産物として発見された
- 同じモンタナ州でもヨーゴ渓谷で産出した石は「ヨーゴ産サファイア」と呼び区別される
- ヨーゴ産とそれ以外で特色が異なり、ヨーゴ産はより価値が高い
- モンタナサファイアは加熱処理をべースにしたファンシーカラー
- モンタナサファイアは美しいバイカラーが多い
- ヨーゴサファイアはカラーゾーニング、加熱処理がない美しい青色
- 両者とも重量が小さくルビーの産出が殆どない
サファイアと言えばスリランカやミャンマー、カシミール産などが主流ですが、モンタナ州由来のサファイアは流行に合わせるようなバイカラー、トリカラーのサファイアが多く産出しオーストラリア産同様に昨今注目を集めています。
ヨーゴ産は枯渇しており、現在還流品やアンティークジュエリーにセットされたものが見られる程度で、今後は資産価値の向上が予想されます。
現在はロッククリーク鉱山などでサファイアの採掘が継続的に行われ、モンタナ州のサファイア採掘が観光資源としても機能。採掘体験、加熱・研磨プロセスからジュエリー制作までを体験できるツーリズムも盛んで、多くの家族連れや観光客で賑わいを見せています。
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