![ジェットとは?格調ある漆黒の宝石の秘密とモードを考察!](https://www.miraihoushoku-market.com/wp-content/uploads/2021/06/e411902a1a262326de3006c1b1a12d6c.png)
故人の思い出に涙し、そして安らかな眠りを祈る時、あなたはどんなジュエリーを身につけますか?ジュエリーはTPOに準じて使い分けますが、特に喪に服する際は控えめな色合いの真珠やオニキスなどを身に着けるのが一般的です。
しかし海外に目線を向けると、ジェット(Jet)という宝石が喪服に合わせて身につけられてきました。今回は100年以上も昔から、死者と向き合う為の宝石と呼ばれた石、ジェットという宝石を解説していきます。
ジェットの基本情報
化学組成 | 有機物 |
---|---|
結晶系 | – |
モース硬度 | 2.5~4.0 |
劈開 | なし |
比重 | 1.32 |
屈折率 | 1.660 |
複屈折率 | なし |
多色性 | なし |
そもそもジェットとは?
ジェットは無機質、結晶質の宝石ではなく、真珠やサンゴと同じように自然が生んだ有機物の宝石です。海底に沈んだ松や柏が、長い時間をかけて分解され泥化し、化石化して誕生します。
磨くとこってりした黒味を帯びることから、象牙の白と対比され様々な文学作品でジェットの美しさが語られています。黒色の艶感のあるジェットはビロードのような美しさで人々を魅了し、魔除けの力を持つともいわれてきたのです。モース硬度は2.5~4.0と非常に脆弱ですが、5000年前から様々な宝飾品へ加工されており洞窟や遺跡からジェットが見つかっています。
またジェットは喪服用のジュエリーとして身に着けられ、宝飾史の中でモーニングジュエリー(Mourning Jewelry)の一つとして重要視されるようになっていきました。
和名では「黒玉」と呼ばれ、ダイヤモンドと同様に多量の炭素を含んでいます。由来が植物であり、アンバー(琥珀/こはく)同様に海岸に打ち上げられて見つかることから「ブラックアンバー」という別名も持ちます。
ジェットの産地と歴史
ジェットの一大産地であるイギリスのウィットビー
手に取ると分かる、独特でシルキーな艶と光沢と吸い込まれそうになる黒色。ここではジェットの産地別の特徴から、興味の扉をノックする伝説等を紹介していきます。
ジェットの産地
ジェットはイギリス、スペイン、フランス、ドイツ、アメリカなどで産出します。欧州の各地で産出しますが、加工に向いているのはイギリス、スペインのものが中心です。
中でもイギリスのウィットビーはジェットの一大産地として知られており、粘着力と強い柔軟性があるため耐久性が高く、宝飾品加工として最も適したジェットと言われます。一方でスペインのもの、特にガリシアのジェットはしばしイギリスに輸入され、その柔らかさを活かしてビーズ状のロザリオや聖人像を彫刻するのに多用されました。
ジェットの代用品一覧
ジェットの代用品として使われた黒曜石
- 樹木が沼地に埋まって炭化した「ボグオーク」
- フレンチジェットと呼ばれる「黒ガラス」
- 火山岩の一種である「黒曜石」
- 人工硬質プラスチックである「ベークライト」
ジェットは安価な素材ですが、より手に届きやすいものとして多くの類似石が使われました。樹木(オーク材)が沼地に埋まって炭化したボグオーク、フレンチジェットと呼ばれる黒ガラス、火山岩の一種である黒曜石などがその例です。また人工硬質プラスチックであるベークライトもジェットの代用品として使われました。
ウィットビー周辺の工房では粗悪品、類似石が「ウィットビー産ジェット」として販売されることに業を煮やしていたそうです。
ジェットの伝承と伝説
宝飾品としての歴史が5000年前にまで遡るジェットは、特異的な効能を信じて身につけられてきました。どんな宝石にもその外観や硬度などを鑑みた魔術的側面が付随するのは一般的ですが、ジェットの場合は以下のような効能を見せると信じられました。
- 邪眼から身を守る
- 焚いてくゆらせると悪魔を追い出せる
- 処女性を確認する為にジェットを入れた水を飲む
- 粉末化したジェットと水を混ぜ、飲用すると歯が抜け落ちない
どれもこれも迷信的なものばかりですが燃やすと特徴のある油臭を発するため、これが未来を占ったり邪悪なものを排除したりする効能と結び付けられたようです。
黒いトルマリンであるショールと混同され、帯電性が魔術的効能に結ばれることもありましたが、ジェットの漆黒の色や燃やした時の強い香りと煙が、多くの伝説の元になったと考えられます。
関連記事:ダイヤモンドにエメラルド、宝石に隠された薬効の真偽に迫る!
モーニングジュエリーとしてのジェットの役割
「モーニング(Mourning)」という言葉は「喪中・哀悼」などという意味ですが、ジュエリーには故人を哀悼する目的で身に着ける、または個人的な感情を込めたモーニングジュエリー(Mourning Jewelry)というジャンルがあります。
故人を偲ぶためのジュエリーは、現代では遺髪や遺骨を使った人工ダイヤモンド、人工パールなどがありますが、19世紀には漆黒のジェットを使ったものが身につけられていました。ここでは故人を追悼する目的としてのジェット、そしてその歴史について解説していきます。
ヴィクトリア女王が喪用として愛用した
ジェットを語る上で欠かせない人物が19世紀イギリスを統治していたヴィクトリア女王です。流行する色や宝石は常に影響力のある人物に感化されますが、ジェット流行のきっかけとなった人物がヴィクトリア女王でした。ヴィクトリア女王は夫君であるアルバートが崩御した際、その死後40年間を喪服で過ごします。その際に身に着けたのがジェットの宝飾品でした。
長きに渡ってジェットが身につけられたことで、上流階級の間で漆黒の喪用ジュエリーとしてジェットが流行します。その他のモーニングジュエリー(故人の頭髪をセットした金のジュエリー、生没年とイニシャルを入れドクロ模様を刻んだ金の指輪など)と比較すると、ジェットはかなり安価だったことも流行の追い風になりました。
供給が追い付かなくなったため、スペインから若干質の落ちるジェットを輸入し、ウィットビーの街には大小数百のジェット工房が誕生し、黒一色の街になったそうです。
近代ファッションとしての取り入れ方
ジェットは日本の皇室でも、故人を偲ぶ際に身につけられてきました。イギリスの伝統的な慣例が日本でも同様に見られることに感銘を覚えますが、厳かな場面以外でもジェットは身につけられています。例えばシックなジェットをシルバーなどでセットしたもの、フラワーモチーフのネックレスやアンクレット、アンバーやレザーなどと組み合わせたデザインも人気です。
ジェットの歴史や文化背景を考えるとカジュアルなファッションに転用するのは賛否両論があるかもしれませんが、その美しさを最大限生かしたジュエリーは、ファッションの舞台だけでなくメンズジュエリーとしても人気を博しています。
まとめ
- 木片が化石化してできた有機物の宝石
- ギリスでは伝統的に喪用のモーニングジュエリーとして身につけられている
- イギリスのウィットビーが一大産地であり良質とされる
- 燃やした時の香りや煙から多くの伝承が残っている
- 19世紀ヴィクトリア女王が長きにわたり身に着けたことで流行した
そんな厳かで神聖な宝石としてイギリスを中心に流行を呼び、モーニングジュエリーとして利用されてきました。現在はよりカジュアルなデザインにも利用され、ジェンダー関係なく楽しめる、そのファッション的な側面も評価されています。
しかしながら最近は中国の安価なジェットが多く市場に流通しており、これらは偽物ではないものの、イギリス、スペインのものと比べて低品質なので、購入の際には注意が必要です。
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