異端なガーネットが青色のブルーガーネットとするならば、次点で人気、価値が高いデマントイドは正当派のレアガーネット。
デマントイドガーネット(Demantoid garnet)はロシアのウラル山脈から採掘され、ロマノフ王家との関連が深い宝石として知られています。
時代は流れ、ロシアの鉱脈以外にも世界のあちらこちらでデマントイドガーネットが見つかり、昨今は広く認知されつつあります。しかし産地ごとに品質や特徴が異なり、それらは価値に大きく影響を及ぼすことになるのです。
今回はデマントイドガーネットの特徴と歴史、そして各産地の違いと価値基準にメス入れしていきたいと思います。
デマントイドガーネットの特徴
プリズムジュエルス デマントイドガーネット RD 5.5mm 0.69ct
ガーネットの中でも価値が最も高いデマントイドガーネット、まずは各緑色系ガーネットとの違いを踏まえ、デマントイドガーネットの特性を理解していきましょう。
デマントイドガーネット基本情報
デマントイドガーネットの「デマント(Demant)」とは、オランダ語で「ダイヤモンドのような」という意味です。屈折率、分散度が高く、「ダイヤモンド光沢(金剛光沢」と呼ばれる強い照りを持つことからこの名がつけられました。
緑色宝石はエメラルド、ペリドット、トルマリンなどが有名ですが、デマントイドガーネットはチラチラと輝く虹色のファイア(※1)が見られ、美しい煌きが特徴です。しかしモース硬度は全ガーネット中でも脆く6.5程度であり、研磨師泣かせの宝石と言えます。
(※1)光の分散による虹色を示す輝き。
化学組成 | Ca3Fe2Si3O12 |
---|---|
結晶系 | 立方晶系 |
モース硬度 | 6.5 |
劈開 | なし |
比重 | 3.82-3.88 |
屈折率 | 1.881-1.888 |
複屈折率 | なし |
多色性 | なし |
3種類の緑色系ガーネットの違いは?
ガーネットはカルシウムを主とする緑色系のウグランダイト系列、アルミニウムを主とする赤色系のパイラルスパイト系列に分かれます。
緑色系のウグランダイト系列には「ウバロバイト」、「グロシュラー」、「アンドラダイト」という3種のガーネットがあり、各々の種に緑色を呈するガーネットが存在します。
「ウバロバイト」は高濃度のクロムが含まれエメラルド様の色相。「グロシュラーガーネット」にはクロムとバナジウム由来の、グリーンガーネットとも呼ばれるツァボライトが存在します。
そして、鉄を含有する「アンドラダイト」は黄色から褐色の色帯を持ちますが、そこにクロムがあると緑色のデマントイドガーネットという変種が派生します。(黄色の石はトパゾライトと呼ばれます。)
同じような色合いに見えても、実は化学組成、発色要因が異なることをまずは理解しなければなりません。
デマントイドガーネットの歴史とロマノフ王家
デマントイドガーネットを知るにはロシアとの関連を把握する必要があります。
赤色系統のガーネットは紀元前にまで歴史を辿れる伝統を持ちますが、デマントイドガーネットの歴史は1868年のロシアに遡ります。ロマノフ王家お抱えの宝飾メーカー「ファベルジェ」がロシア皇帝アレクサンドル3世の命により、デマントイドガーネットを利用した宝飾品を多く制作しました。
それらはイースターエッグからタイピン、バングルにパリュールまで様々…。ベルエポック(※2)と呼ばれる時代、ロシアや欧州諸国で作られた宝飾品には美しいトーンのデマントイドガーネットが多く使われており、ダイヤモンドが脇役になる程でした。
(※2)1900年から第一次世界大戦が始まる1914年までの時代。
しかしロマノフ王朝が崩壊するとほぼ同時に、ロシアのデマントイドガーネットの採掘は行われなくなり、その短い流行が終りを告げるのです。
ホーステールインクルージョンとは?
デマントイドガーネットには「ホーステール」と呼ばれるインクルージョンが見られるものがあります。これは束状のクリソタイルが放射状に流れる内包であり、その姿が馬の尻尾のように見えるため、ホーステールと名付けられました。
ロシア王室を含め、ロイヤルファミリーは馬を愛でること、そして馬蹄が幸運のシンボルであるのと同様に、このホーステールも幸せの象徴と認識されています。
ホーステールが現れる条件
ホーステールインクルージョンは全ての産地で確認される訳ではなく、「蛇紋岩(じゃもんがん)」由来の石のみに見られます。
例えばロシアやイタリアなどの石は蛇紋岩由来であり、約95%でホーステールインクルージョンが見られます。一方、ナミビアやマダガスカル産などには見られません。
ただし、ホーステールインクルージョンのみを指標にした鑑別はリスキーでしょう。
デマントイドガーネットの産地と特徴
デマントイドガーネットはロシアのウラル産が最も有名で、緑色のトーンに溶け込むような美しいファイアが見られます。ロシア産の石は枯渇と再開発を繰り返しており、現在はコリャークスカヤやコラ半島などで少量産出されますが、全盛期のようなビビッドな色合いのものは少ないようです。
90年代には多くの産地でデマントイドガーネットが産出されるようになり、重要な鉱脈としてナミビアとマダガスカルが挙げられます。ナミビア産はロシア産と比べると色が薄いため、特に強いファイアが煌くことが特徴です。
イタリア、韓国、アメリカ、チェコ、中国、パキスタン、イランなどでも産出があり、ロシア産を思わす品質の石はイランなどで認められます。埼玉県秩父でも少量産出しますが、ルースクオリティーの石は多くありません。
関連記事:デマントイドガーネット 主要産地と産地による違いを解説!
デマントイドガーネットの価値基準
デマントイドの価値は今後も上がることが予想されます。しかし、茶色みを帯びた石を加熱処理したものは必然的に価値が下がります。
カラーは深みのある緑色が人気で、イエローやブラウンが入り込む場合は価値に影響を及ぼします。
クラリティーに関しては、他の色石に比べて品質に影響することは少ないですが、ホーステールがある場合は価値が高くなります。ただし、位置や大きさなど審美性が考慮されることも少なくありません。
意外と1カラットまでの重量の石は見かけますが、特に3カラットを超えると希少価値の面で大きく資産価値が向上します。
まとめ
デマントイドガーネットの特徴をまとめると以下のようになります。
- 屈折率、分散度が高く強い照りがある
- 緑色系のウグランダイト系列に分類され、アンドラダイトの変種である
- ロシアのウラル山脈で発見され、ロマノフ王家が愛した宝石
- ホーステールインクルージョンは幸運のシンボルとされ、ロシアやイタリア産に見られる
- ロシアのウラル産は審美性、希少性ともに高い
- 90年代以降多くの産地で採掘されるが品質は様々
- 加熱処理したもの、黄色や茶色味があるものは価値が下がる
- 深みのある緑色、ホーステールインクルージョンがあるものは価値が上がる
一時は幻の宝石と呼ばれましたが、ナミビアやマダガスカル産の石が登場して以来、様々な国からピンキリの石が流通するようになりました。
しかしロシア産の高品質の石は、緑色のトーンに溶け込むように美しいファイアが見られ、特にウラル産の石は希少性だけでなく審美性でも他の追随を許しません。
ルース一つで楽しめる宝石ですが、ロシア皇帝が愛したその歴史すらも一つの価値。モダンはモダンの魅力がありますが、ロシア産のアンティークジュエリーには石の品質だけでなく、それを引き立てる秀逸なデザインが多いので、機会があれば過去のファベルジェ作品で目の保養をすることをオススメいたします。
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