ルビーとピンクサファイアの違い、伝統的にその色の線引きが議論されてきましたが皆さんは微妙な赤とピンクの差の決定基準についてご存知でしょうか?
コランダムの中でもルビーとピンクサファイアの違いは長らく議論の的になってきました。20世紀まではピンクもレッドとみなされており、ルビーの1つとして認識されていました。100年以上前の世界では、ピンクサファイアがピンクルビーとして世に出回っていたのは何とも興味深い事象です。
その後、宝石学の発展の中で「ピンクはピンクでありレッドではない」という議論が巻き起こり、それがそのまま令和の時代まで続いています。
線引きが難しいルビーとピンクサファイア、果たしてどのように両者を鑑別するのでしょうか?
ルビーとピンクサファイアの特徴と相違
ルビー、サファイアを有するコランダムは、硬度9を誇るダイヤモンドに次ぐ硬さの酸化アルミニウムの結晶です。コランダムの純粋な石は無色透明ですが、そこに不純物として微量の遷移元素が混入することで様々な色合いを呈するようになります。これを他色と呼んでいます。
無色のコランダムは不純物が含まれておらず自色と呼びますが、混入する遷移元素の種類、割合によってそれは様々な色を見せ、赤と青以外の石はファンシーカラーサファイアと呼ばれています。
さてファンシーカラーのピンクサファイアとルビー、その発色の違いはどんなメカニズムになっているのか、まずはその点を検証していきましょう!
ルビーとピンクサファイアの発色要因の違い
赤色のコランダム、つまりルビーはアルミニウムの代わりにクロムが置換することで赤色を呈するようになります。最高級のルビーは無処理のモゴック産ルビーで、深紅の燃えるような赤色と強い蛍光を示し「ピジョンブラッド」と呼ばれます。
一言で赤と言っても純粋な赤から赤紫、ガーネットのように黒味を帯びているものから、ペールピンクまで様々。それらの違いはクロムの含有量によります。
ルビーは0.5~1%程度のクロムを不純物として有し、ピンクサファイアの場合はごくわずかのクロムしか混入していません。約0.1~0.5%未満の場合は、赤というよりはピンクサファイアになり、その色合いは薄いピンクからバイオレットピンクまで様々です。
なお両者とも審美性は高いのですが、市場価値はルビーの方が高いことは言うまでもありません。
プロはルビーとピンクサファイアをどう鑑別する?
はたしてプロの鑑定機関はどう区別するのか?その回答は「ルビーとピンクサファイアの明確な色の線引きというものは存在しない」が正解です。
「ルビー判定か?それともピンクサファイア判定か?それは立場がセラーかバイヤーなのかによる」、といういやらしいジョークもあるくらいです。
基本的にそれらの鑑別は色合い、明度、彩度を考慮に決定されますが、各鑑別機関によっての判定基準は異なります。例えばGIAでは、色を比較するためのマスターストーンを利用し、主要色が赤色とみなされればルビーと鑑別されます。
吸収スペクトルを比較する鑑別方法もありますが、世界の鑑別機関や研究所では化学的な検証に合わせ、その国に根付く土壌、価値観、そして主観によってルビーまたはピンクサファイア判定が行われます。消費者としては混乱を覚えずにはいられませんね……。
消費者が明確にルビーの購入を考える場合は、「ドミナントカラー(※3)が赤」であることを念頭に、鑑別書でルビー判定が付いている石を選ぶべきでしょう。
(※3)配色全体を支配する色相のこと。
需要が急増するホットピンクサファイア、今後の動向は?
「ルビーのルースをソーティングに出したらピンクサファイアだった……。」というどんでん返しはよく聞く話しです。いかにそのカラートーンの境界線はあいまいかがわかる逸話ですね。
そんな悩ましいピンクサファイアですが、最近は伝統的なルビー人気に追随するようにピンクサファイアの需要が急増しています。
きっかけとなったのは海外セレブ。レディー・ガガはネオンを思わせるホットピンクのピンクサファイアを婚約指輪(※1)として身に着け、ニコール・キッドマンはピンクサファイアのイヤリング(※2)を耳に揺らしレッドカーペットを歩いています。
(※1)2018年にクリスチャン・カリーノと婚約した際に披露した婚約指輪。約6~7カラットのピンクサファイアをダイヤモンドで囲んだデザインのリング。
(※2)Critics’ Choice Awards 2020にて身に着けたハリーウィンストン製イヤリング。ペアシェイプカットのピンクサファイア8石、トータル約1.6カラット。
なお、レディー・ガガのそれはパパラチアの色味があるとの意見もあり、ファンシーカラー判別の難解さを物語ります。
宝石やジュエリーはセレブリティや王室関係者の着用により人気に火が付くことも多く、今後はアイクリーンで非加熱のホットピンクサファイアの市場価値が高まることが予想されます。
まとめ
ルビーとピンクサファイアの違いと鑑別についてまとめると、
- ルビーはアルミニウムの代わりにクロムが置換することで赤色を呈する
- クロムの含有量が0.5~1%程度の場合はルビー、約0.1~0.5%未満の場合はピンクサファイアになる
- 色合い、明度、彩度を考慮して決定されるが、各鑑別機関によって判定基準が異なる
- GIAでは、マスターストーンを利用し、主要色が赤色とみなされればルビーと鑑別される
- ルビーを購入する際は「配色全体を支配する色相が赤」であることを基準に、鑑別書付きの石を選ぶ
- 海外セレブによりホットピンクサファイアの需要も急増している
ピンクサファイアは国や鑑別機関によって、ルビーとして扱われることも少なくありません。(その逆も然り)明確なラインがないからこそ、鑑別機関の判定も各々ムラがありその判定は難しく、宝石の面白さをも物語りますね。
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