さまざまな色合いを誇るガーネットの中でも、特に注目を浴びているのが若草色に輝くデマントイドガーネットです。アンドラダイトガーネットに属する宝石で、エメラルドとはまた異なるフレッシュな色合い、そして内包するホーステールインクルージョンが特徴的なガーネットとして知られます。
伝統的にロシア産の宝石が有名ですが、今回のコラムでは産地別のデマントイドガーネットの違いについて考察していきたいと思います。
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始まりはロシア!誰もが魅了された新種のガーネット
深紅のアルマンディンも紫をかじるロードライトも素敵。ガーネットには色相環にあるほぼ全てのカラー宝石が産出し、どれもこれも個性的で優劣を付けるなんて愚の骨頂かもしれませんね。
しかし、その美しさと希少性でピカイチなのはデマントイドガーネットではないでしょうか?(異論はもちろん認めます!)詳細は後述しますが、1854年にロシアの鉱物学者であるニルス・グスタフ・ノルデンショルドが優れた輝きを誇るアンドラダイトガーネットを発見したのが始まりです。
デマントイドガーネットの基本情報や特徴、価値基準などは「デマントイドガーネットとは?特徴・歴史・価値基準を解説!」でより詳しく解説しています。
ロシア皇帝に愛された宝石
デマントイドガーネットが皇帝という輝かしい形容をつけて語られるのは、ニコライ2世が統治した時代に多くの原石が採掘され、ロマノフ王家や貴族たちがこぞって美しい宝石を利用した宝飾品制作を依頼したためでしょう。
1900〜1920年代のベル・エポックと呼ばれる時代には、ロシアで産出されたデマントイドガーネットをセットしたジュエリーが多く制作されました。その現存は限られているものの、現在もロシアに起源を持つ宝石が散りばめられたアンティークジュエリーは市場に流通しています。(ファベルジェ(※1)もデマントイドガーネットを使用した豪奢な宝飾品を多く制作)
(※1)ロシア皇室にゆかりのある宝飾史に名を残すブランド。インペリアル・エッグなどで知られています。
エメラルドとの比較
プリズムジュエルス エメラルド0.888ct,デマントイドガーネット0.69ct
多くのインクルージョンを含有するエメラルドとなにかと比較されがちですが、物理的・光学的な特性は全く異なり、デマントイドガーネットは単屈折で非常に高い分散度(0.057)を持ち、まるでダイヤモンドを思わすファイヤーがチラチラと覗いています。
そのビビッドな色合いがゆえ、肉眼でバチバチなファイアを確認しにくいのですが、角度を変えてファセット面を観察するとチラチラと七色の光を覗けることでしょう。
ホーステールインクルージョンについて
デマントイドガーネットにはその特徴を裏付けるインクルージョンが内包する場合もあります。まるで馬の尻尾を思わせるその様相から「ホーステール」と呼ばれており、宝石の瑕疵(かし)というよりも、ホーステール自体に審美性を見出す傾向もあるくらいです。
クリソタイルもしくはアスベスト(※2)からなるインクルージョンですが、ホーステール=デマントイドガーネットと考える消費者も多いのが現状です。しかしながら、産地、宝石によっては全くこの内包が見られないものもあり、なおかつ同じアンドラダイトガーネットに属する非デマントイドガーネットにもホーステールインクルージョンが見られる場合もあります。
(※2)石綿とも呼ばれる天然の繊維状けい酸塩鉱物。
基本的に蛇紋岩起源のデマントイドガーネットにホーステールインクルージョンが混入することがありますが(全てではありません)、スカルン(※3)を起源に持つ原石にはホーステールインクルージョンは見られません。
(※3)石灰岩などの炭酸塩岩石中にマグマが貫入する際、接触交代作用で形成される鉱物の集合体。
この内包はデマントイドガーネットの特徴、鑑別をする際の1つの指標になることは確かですが、デマントイドガーネットがホーステールインクルージョンを持つとは限らないため、その点は誤解をしてはなりません。
なおホーステールは放射線状に広がるイメージが強いのですが、産地によって異なり、なかには平行の針状や埃のように縮れたもの、途中で千切れたものなどさまざまです。
デマントイドガーネットの主な産地
シャインマスカット、もしくは新緑の緑。その色合いの形容はさまざまですが、ガーネット種の中では一、二を争う美しさと珍しさがあるため、石沼民からも圧倒的人気を博しているデマントイドガーネット。
どうしてもロシア産というイメージは払拭できませんが、ここではデマントイドガーネットが産出する主な産地について解説していきたいと思います。まさか、と思われるような産地もありますよ!
ロシア
引用:Large and Fine Demantoid from Russia
言わずもがなのロシア産デマントイドは、当時の鉱物学者もその正体をガーネットと特定できず、当時は「ウラルクリソライト」と呼ばれていたそうです。ウラル山脈一帯やコラ半島が主な産地となっています。
地元住民などの違法採掘者も多いため採掘量の統計を出すことは難しく、現在は断続的かつ安定した原石の供給が難しいのが現状です。(少数ですが2000年以降も採掘はしています)
全てではありませんが、ロシア産のデマントイドガーネットは美しい放射状のホーステールインクルージョンが特徴で、他の産地と比べてもその形状が揃い、審美的な内包の美しさを感じられます。
イタリア
アスベスト鉱山から稀に産出することがあり、主な原産地はヴァルマレンコ(ロンバルディア州)です。19世紀後半には産出していたといわれ、ロシアに次いで見つかったデマントイドガーネットの産地です。既に採掘は行われておらず、現在はカットを施したルースや原石の標本が市場に出回っています。
組成的には純粋なアンドラダイトであり、若干黄色を噛んだ緑色、不均一のホーステールインクルージョンが特徴といえるでしょうか。
イラン
イラン産のデマントイドはかなり限局された供給源であることは確かですが、その色合いとホーステールの入り方はロシアに匹敵する、もしくはそれ以上といわれることも少なくありません。凝縮された濃いグリーン、馬の尻尾そのままの流れるようなホーステール。うっとりする品質とびっくりするプライス。
ケルマーン州で採掘され、微細なクラックとカラーゾーニングがあることも特徴であり、今後数十年間、安定的に流通可能な埋蔵量があると考えられています。
カナダ
宝石品質のデマントイドガーネットは、1990年代からカナダのケベック産の研磨宝石が市場に流通し始めました。産出量は少なく、比較的薄いカラー、半透明から不透明の原石が多いものの、中にはホーステールインクルージョンを含む宝石もあります。
パキスタン
比較的新しい産地であり、2000年代に入ってから市場に見られるようになったパキスタン産のデマントイドガーネット。宝石の色合いはイエロー、ブラウン味を帯びた色合いのものが多いようです。さまざまな形状のホーステールインクルージョンを内包する場合がありますが、上質の原石は非常に少なく、その産出量も散発的になります。
ナミビア
1990年代に発見されたナミビア産のデマントイドは砂漠地帯で産出されますが、非常に過酷な気候と採掘環境がゆえにその産出量は少なく、1カラットを越える原石はほとんどありません。
色合いはイエローからブラウンがかったものやブルー味を帯びたものが多く、デマントイドガーネット特有のクロム由来の鮮やかなグリーンの原石はあまり見られません。(ただし最近はクロム含有量高めの原石産出もあります)ロシアやイラン産のような濃厚色ではないからこそ、ダイヤモンドを思わせる強いファイアが目視しやすいともいえますね。
注意点として挙げるとすれば、同じアフリカ大陸のマダガスカル産デマントイドガーネットと同様にホーステールインクルージョンの内包がないことでしょうか。
その他
デマントイドガーネットは上記以外の国々でも産出します。アメリカのカリフォルニア州でも大変少量ですがデマントイドガーネットが採掘され、同じアメリカ大陸のメキシコ(ベラクルス州)においては若干黄色味を帯びた原石が発見されています。(メキシコの場合はどの程度の産出量なのかなどの詳細なデータは揃っていないようですが)
トルコ東部でもアンドラダイトガーネットとともに産出することもありますが、市場で見かけることは非常に少ないのが現状です。
まとめ
『デマントイドガーネットの産地』に関してまとめると、
- ロシア産は歴史的にも重要な位置付けの産地である。美しいホーステールインクルージョンを持つ石が多く、2000年以降も鉱山は稼働。
- イラン産デマントイドガーネットはロシア産を凌ぐような宝石質の原石を産出し、今後が期待できる産地。(ただし非常に高額)
- カナダやパキスタン、イタリア、ナミビアなども産出しているが、そのクオリティーや供給量は不安定。
- ホーステールインクルージョンはスカルン起源には含まれず蛇紋岩由来にのみ見られ、その特徴も産地によってバラツキがある。
このように産出する場所によって、クロムの含有量に大きな差がみられたり、見慣れたホーステールとは異なる形状のインクルージョンが入ることも少なくありません。
今回紹介した産地以外にも韓国、コンゴ、スリランカなどでもデマントイドガーネットの産出はありますが、ロシアのイメージが強く定着しているため、驚く方も多いと思います。
しかしながら、宝飾品に利用可能なクオリティーの原石はメレから1カラットを越えないサイズのものばかりなので、産地、インクルージョンの有無に限らず鮮やかなグリーンの原石は高額で取引されています。(産地の中には加熱による色味の調整を行っているものもあります)
どの宝石もインクルージョンには独特の世界観があり、宝石の欠点以上に私たちを楽しませてくれます。10倍ルーペを片手に、宝石の中にどんなインクルージョンがあるのか(もしくは、ないのか)を探り産地を予想してみる、こんな風に宝石を愛でてみるのも粋な楽しみ方かもしれませんね。
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