翡翠(ヒスイ)の国の人だもの。そう、日本は何を隠そうヒスイが国石です。宝石の中でも、根強い人気を誇りますが、変種や亜種が多く、なおかつ処理石が非常に多いため、なかなか手が出しにくい宝石の一つとも言えます。
ヒスイは、結晶の集合構造からなる宝石であり、様々な成分が混ざりなおかつ固溶体を形成するため、ヒスイを明確化することは困難です。翡翠(ヒスイ)、なかなか奥深い宝石だと思いませんか?
今回はわかりやすくヒスイの種類を解説すると共に、覚えておくべき処理方法と価値への影響を解説していくので一緒に勉強していきましょう!
ヒスイとは?国によっても異なるヒスイの概念
宝石を学ぶ上でなかなか理解が追い付かない、けれども底なしの魅力が混在するもの、それが真珠とヒスイだと言われています。(個人的見解に基づく)
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このヒスイという宝石は国や歴史によって、その立ち位置が異なり、固定概念の中でヒスイを落とし込んでしまう傾向も強く、誤解が多い宝石です。そこで、まずは初心者の方にも分かりやすくヒスイのイロハを解説していきましょう。
翡翠(ヒスイ)は二種類存在する!?
ジェード、ヒスイにジェダイト、同じような言葉、意味に思えても慎重に整理してみると明らかな違いがあります。
まずヒスイを理解する上での起点になるのが「ジェード(Jade)」という言葉です。英語でヒスイ、ヒスイの装飾品やヒスイ色を示す単語ですが、ジェード=ヒスイではなく、2つの独立した鉱物に分類が可能です。(ただしジェードには、緑色の半透明の宝石の総称を意味する際にも使われます。)
ジェード(Jade)の分類
ジェダイト(ヒスイ輝石) | ネフライト |
---|---|
硬玉 | 軟玉 |
輝石鉱物(パイロキシン) | 角閃石鉱物(アンフィボール) |
日本でヒスイを指す宝石 | 古代中国でヒスイを指す宝石 |
ジェードとは異なる2つの鉱物である「ジェダイト(硬玉)」と「ネフライト(軟玉)」のことであり、ジェダイトは輝石鉱物(パイクロシーン)、ネフライトは角閃石鉱物(アンフィボール)に属しています。
ジェダイトもネフライトもパッと見が類似しておりその鑑別は難しく、以前はジェダイトもネフライトも同一視されたことがありました。古代中国でヒスイと言えばネフライトを指し、いにしえの中国由来のヒスイの芸術作品や装飾品はネフライトです。1800年代にビルマ(現在のミャンマー)から中国へジェダイトが伝わるまで、中国においてはネフライトが最高の玉だったということですね。
19世紀にはジェダイトとネフライトは別の鉱物として扱われ、日本でヒスイを指す宝石は、ヒスイ輝石を主とする岩石であるジェダイトを指します。(鉱物名がヒスイ輝石)
ヒスイの国、日本ではヒスイ=ジェダイトであり、ネフライトはジェダイトよりも価値は劣るものの、ジェダイトと同様に美しい色合いと審美性を誇る「ヒスイ類似石」と考えると適当でしょうか。
おばあちゃんのマメ知識ですが、ジェダイトもネフライトもその言葉の由来はスペイン支配時代のコロンビアまで遡ります。その当時ジェダイトは「Piedra de ijada」、ネフライトは「Lapis nephriticus」と呼ばれ、両者ともマヤ人に伝わる伝承で腎臓を治癒するために使われたと言われています。
ジェダイトの判別基準について
前項でヒスイはヒスイ輝石を含む岩石の総称と言いましたが、その広いカラーバリエーションが物語る通り、ヒスイには様々な成分が含有していることは明白です。
まずヒスイ輝石はアルカリ輝石グループの一つであり、ジェダイトと呼ぶにはヒスイ輝石をそれなり以上の純度で含有していることが必要になります。おおよそ80%以上のヒスイ輝石を含めばジェダイトとして扱われますが、それでは残りの含有物は何なのでしょうか?
それらの含有の程度と種類は自然がなす業ですが、オンファス輝石(オンファサイト)、エリジン、コスモクロアまたはダイオプサイドなどの輝石の成分が固溶体として含まれることが多いです。
ガーネットやフェルドスパーも同じく固溶体を形成しますが、ジェダイトも同様であり、ヒスイ輝石の含有量、同じアルカリ輝石の他の成分の混入量が、ジェダイト判定される一つの基準になっています。
グリーンのヒスイと言っても、含有するクロムや鉄、カルシウムなどにより様々なカラーバリエーションが存在し、ヒスイっぽくない石がジェダイトであったり、一方でヒスイとは呼べない石がジェダイトとして販売されているケースも少なくありません。
ヒスイの人工処理と、処理が価値に与える影響とは?
どんな宝石についても同様ですが、原石のままでは輝かず、後天的要素として人為的な処理をすることで宝石としての美しさを引き出します。その好例が研磨と人工処理ですが、ここではヒスイに施される人工処理についてを解説します。
無処理のヒスイももちろんありますが、近年人工処理がなされたヒスイが増大してきているので、それらの処理を正しく理解することが求められます。
ワックス
ヒスイにおけるワックス処理は表面の溝を滑らかにすると共に、その輝きを向上させる目的で行われます。通常蜜ろうやパラフィンが使われます。
含浸
含浸処理はエメラルドでよく見られる処理ですが、多孔質(※)のヒスイでも樹脂による含浸処理が行われます。この人工処理は、まず酸によって審美性を損ねる酸化物の変色を除去し、その後に合成樹脂による含浸の2ステップで行われます。
(※)多孔質(たこうしつ)。多数の細孔(小さな穴)の空いた状態。
なお、この酸によるヒスイ表面のブリーチは「漂白」と呼ぶことができます。この人工処理を施すことで、ヒスイをより鮮やかにし透明度を高めることができます。
染色
染色処理は見た目の審美性を向上させるために着色処理をすることです。含浸と同様にトリートメントに当たる人工処理であり、特に人気の高いグリーン系、ラベンダー系の着色が行われます。
その他
ヒスイに対して行われる人工処理は非常に多彩であり、上記で紹介したメジャーな処理以外にもヒスイの粉末を固めたものもあります。
なお色石に頻繁に施される加熱処理については、鉄由来の黄色み、褐色のトーンを無くすために行われることがありますが、あまり見かけない処理です。それと同様に放射線処理は慣習的にヒスイでは行われませんが、しばしば照射処理による色の改変を伴ったヒスイも稀に市場で見られます。
ヒスイのランクとその価値について
ヒスイは人工処理の具合によって4つのランクに分類されます。その価値はAランクが最上であり、アルファベットが進むに連れて価値が低くなります。
Aジェード
「Aジェード」とは天然のヒスイであり、なおかついかなる人工処理も施されていないものを指します。中でも最高品質のヒスイは「ろうかん(琅玕)」と呼ばれます。
このカテゴリーであっても、酸やワックス、ロウなどによる人為的な艶だし加工を含む場合があり、その場合も未処理のAジェードとして取引されます。実際はこの艶だし加工のワックス処理が行われている場合がほとんどです。
Bジェード
「Bジェード」はヒスイの色合いを強調し、透明度を上げるため酸による漂白の後、樹脂で含浸処理を施したものを言います。
含浸に関しては、ポリマー樹脂以外にも色付けしたプラスチックでコーティングされる場合があり、特に注意が必要です。透明度が低いヒスイに行われることが多く、劣化しやすく部分的にコーティングが剝がれることも少なくありません。
このタイプの石は見た目が均一で、素人目には上質なヒスイに見えるため、一種の詐欺案件として市場に紛れ込むことがあります。なおこのタイプの人工処理石は「マンダレージェード」と呼ばれています。
Cジェード
「Cジェード」は染色処理が行われたヒスイです。染色は色合いの向上を目的にしていますが、逆に透明度を下げる場合もあり、必ずしもそれがコントロールできるとは限らないのが難しい点でしょうか。
このタイプのヒスイは宝石としての価値はほとんどありません。またヒスイ輝石の成分含有量が著しく低い石も多く、そもそもヒスイと言えないようなものも少なくありません。
なお染色と共にポリマー樹脂で含浸処理が行われているタイプは、Cジェードではなく「B+Cジェード」と呼びます。
Dジェード
「Dジェード」とはいわゆる張り合わせ石のことです。つまりジェードとプラスチックを貼り合わせて、天然のヒスイに見せかけた模造石のことを指します。ただし硬度の低いヒスイの強度を補強するというポジティブな見方もできます。
顕微鏡で覗くと気泡が見られ判別可能ですが、このタイプはルースではなく宝飾品にセットした状態で市場に出るので厄介です。
まとめ
ヒスイの種類と人工処理に関してまとめると、
- ジェダイト(硬玉)、ネフライト(軟玉)が存在し、以前は同一視されてきた
- 日本においてヒスイは硬玉であるジェダイトを指す
- ヒスイの鉱物名はヒスイ輝石であり、アルカリ輝石による多種鉱物の集合体である
- ワックス、含浸、染色、漂白などの人工処理が頻繁に行われている
- 処理の程度によりA~Dジェードに分類され価値が大きく異なる
ヒスイの人工処理については通常「〇〇処理が行われています。」とソーティングや鑑別書に記載されるべき事項であることは明白な事実です。
鑑別機関またはヒスイの産地、加工場所によっても、その見解や処理に対する扱いが散漫な場合もあるかもしれませんが、顧客側もお店が小出しにする情報を信頼せず新たに鑑別に回すこともしばしば。
どの宝石にも共通していることですが、ヒスイについても処理の有無の裏付けがなく販売する場合はその旨を消費者にしっかり伝える必要があります。
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