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合成ダイヤモンドとは?特徴、マーケティング、販売倫理を検証

2021.12.13 2025.07.07

合成ダイヤモンドとは?特徴、マーケティング、販売倫理を検証

結晶構造も光学・物理的性質も天然と同様、そんな合成石の在り方を考えさせられる時が来たのかもしれません。日に日に大きくなる合成ダイヤモンドの存在感は宝飾市場を変革させる一つのキッカケ。今回はダイヤはダイヤでも天然ではない合成ダイヤモンドについてのコラムです。

合成ダイヤモンドとは?という初歩的なイロハから、なぜ注目を浴びているのか、そして合成ダイヤモンドが市場に流入することでもたらす危うさについても考察していくので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。

 

近年注目を集める合成ダイヤモンド

合成ダイヤモンドとは天然と同様の特徴を兼ね備えた、いわゆる人為的に作られたダイヤモンドのことです。もはや当たり前のように工業分野で合成ダイヤモンドは利用されていますが、宝飾用に合成ダイヤモンドが大きな存在感を示し始めたのは数年前から。

Lady Gagaやサセックス公爵夫人などの著名人も合成ダイヤモンドを身に着け、マスメディア経由でも合成ダイヤモンドに大きなスポットライトが当たり始めています。

 

合成ダイヤモンドとは?天然と何が違う?

合成ダイヤモンドとは?

地中深くで悠久の時を経て結晶を育んできたのが天然ダイヤモンド。一方で、研究所やラボ経由で製造されたダイヤモンドの結晶を合成ダイヤモンドと呼びます。結晶が育まれる環境こそ異なりますが、基本的に両者は同じ特徴を携えており、合成ダイヤモンドは特に工業分野で多く利用されてきました。(工業用として多用される理由はダイヤモンドの硬度、耐摩耗性、熱伝導性の高さなどの理由)

合成ダイヤモンドは天然ダイヤモンドと同一の結晶系、硬度、密度、屈折率等を持つため、合成と形容が付いてもダイヤモンドであることには変わりありません。ただし天然とは異なる結晶構造の欠陥やスペクトル、蛍光性の違い、または特異的な不純物の存在、磁性などにより、天然と合成の区別は可能です。

なお、ダイヤモンド類似宝石として使用されるモアッサナイトやキュービックジルコニアは自然界に存在しない人口宝石です。ダイヤモンドとは全く異なる特徴と結晶構造を持つため、ダイヤモンドとは全く別物の人造宝石と理解しておきましょう。

関連記事:ダイヤモンドの人造・模造宝石一覧!定義、特徴、見分け方

 

合成ダイヤモンドの歴史

ダイヤモンド合成の始まりはアメリカのゼネラル・エレクトリック社に遡ります。それ以前にもユニオン・カーバイド社が低温・低圧状態で小粒のダイヤモンドを合成していますが、商業化が可能なレベルの合成ダイヤモンドはゼネラル・エレクトリック社がパイオニアです。

ゼネラル・エレクトリック社が用いた技術は約1200~2700度、50~100Kbar(キロバール)の高温高圧条件下で、原料である炭素をダイヤモンド結晶に成長させるというもの。地殻マントル過程をラボで再現し、天然ダイヤモンドなら数億年かかる結晶を数週間で成長させるというわけです。勿論その裏には膨大な製造元値がかかりますが、昨今は同一の方法であってもコストダウンに成功しています。

 

合成ダイヤモンドの製造方法

ラボラトリー

さてここでダイヤモンドの合成方法に関して、簡単にまとめていきます。

 

HPHT

ゼネラル・エレクトリック社が合成に成功したのと同様の方法であり、前述でも触れましたが天然ダイヤモンドを育成可能な高温高圧状態を人為的に作り出し結晶を育む方法です。なおHPHTはHigh Pressure , High Temperatureの略になります。

1970年以降には1カラットを超える結晶も生成可能になり、クラリティーを含むダイヤモンドのクオリティーも向上しました。デビアスや住友電工、ロシアやアメリカ、スイスのラボの参入もし、90年代にはアメリカのモリオン社がジェムクオリティーの合成ダイヤモンドを製造。

この方法による合成ダイヤモンドの特徴としては、内包を含む金属光沢の不透明な石、黄色を帯びた石が多く、UV長波にて黄緑色の蛍光性を示すなどです。なお故人、ペットの遺骨や遺髪からダイヤモンドを作り出す技術は、このHPHTによる技術を使用したものになります。

 

CVD

CVD合成は日本語に訳すと化学気相成長法と呼ばれるもので、Chemical Vapor Depositionを略したものです。HPHTと異なり、よりシンプルで高圧条件を必要としないタイプの合成法になります。つまり高温低圧下で炭素を主成分にする気体からダイヤモンドを合成する方法で、1962年アメリカのエバーソールによって初めて特許が取得されました。

CVD法により製造コストを抑え、かつ内包の少ないグレードの高いダイヤモンドを製造することが可能になりました。

 

LIGHT BOXから始まった合成ダイヤジュエリーの快進撃

合成ダイヤモンドがファッションジュエリーとして市場を賑わせ始めています。そのトリガーになったのは言わずもがな、ダイヤモンドカルテルの雄ともいえるデビアス社が2018年に発表したLIGHT BOX(ライトボックス)でしょう。

泣く子も黙るデビアス社が敢えて合成ダイヤモンド(HP表記ではラボ・グラウンとして表示されています。)のラインを発表したのには、幾つかの理由が考えられます。

  • 天然ダイヤモンドとの差を明確にすることで、天然ダイヤモンドの価値を守る
  • ジュエリー、ダイヤモンドに興味が薄いライト層へのアプローチ
  • 5年、10年後の合成ダイヤモンド市場拡大を見据えた戦略
  • 天然では大変希少なブルー、ピンクダイヤモンドが提供可能になる

デビアス社は「ファッションとしてのダイヤモンドをよりカジュアルに」をテーマに合成ダイヤモンドを展開し、天然ダイヤモンドのスペシャルとは異なるマーケティング戦略を立てることで、自社の天然ダイヤモンドと上手く棲み分けしています。

デビアス社のLIGHT BOX(ライトボックス)発表以後、日本でも合成ダイヤモンドに対する関心は強まり、合成ダイヤモンドを主軸にしたブランドも多く立ち上がりました。プライマル、スタージュエリー系列のSJX W、そして銀座という一等地でブランド展開をスタートしたENEY(エネイ)など。また王道チャームジュエリーで人気のデンマークのパンドラは、ミレニアム世代への販売促進、そして倫理的な側面から天然ダイヤモンドの使用を原則停止し、合成ダイヤモンド一択でコレクション展開していくことを決定しました。

それぞれのブランドが打ち立てるアイデアやデザインこそ異なりますが、天然ではないからこその世界観やダイナミックな石使いは、スタンダードな天然ダイヤモンドジュエリーでは見られない面白さ、攻めの強さを感じさせます。合成ダイヤモンドジュエリーはまだ開拓されたばかり。賛否両論こそありますが、天然ダイヤモンドを愛でてきた層にも刺さる展開が今後も期待できるかもしれません。

 

エシカルな合成ダイヤモンドビジネスに求められるもの

エシカルな合成ダイヤモンドビジネスに求められるもの

合成ダイヤモンドが多岐に渡る宝飾品として利用されるようになってから、ダイヤモンド、ジュエリー選びに新しいオプションが増えたのは事実。しかし合成ダイヤモンドの正しい理解が及ばない、または誤解を招く形で合成ダイヤモンドが消費者に渡ることも危惧しなければなりません。

 

エシカル押しの合成ダイヤモンド

合成ダイヤモンドを扱う宝飾業者が語る宣伝文句として挙げられるのが、「エシカル」という言葉です。要するに倫理観を持ち合わせたダイヤモンドですよ、という意味合いになります。

天然ダイヤモンドの場合は紛争ダイヤという言葉もある通り、紛争、戦争の資金源になる武器を購入するためにダイヤモンドが売買されることがあります。それを防ぐためにキンバリープロセス※1が採択されているわけですが、そもそもラボ内で完結する合成ダイヤモンドであれば流血事件とは無縁です。また、合成ダイヤモンドは採掘の必要がないため環境破壊や児童労働といったモラル面の問題がなくなる点も評価できるでしょう。(エシカルやサスティナビリティを謳うには十分な情報開示ができていないこともあり、エシカル志向の宝石と宣伝するのは時期尚早との声もあります)

(※1)ダイヤモンド原石が紛争に関与していないことを証明する国際認証制度のこと。

 

消費者の誤解を招く恐れのある表記

合成ダイヤモンドの表記は複数あり、それが消費者に迷いや誤解を植え付けています。現在多く見かける合成ダイヤモンドの呼称は以下のようなものになります。

  • Labo Grown(ラボグラウン/ラボグロウン)=LG
  • Labo Created(ラボクリエイティッド)
  • Synthetic(シンセティック)
  • Man Made(マンメイド)=MD

など業者によって呼び名が異なるため、消費者に誤解を与えかねない表記が多い点は見過ごせません。

海外の小売サイト以外にも、日本の宝飾店の広告やウェブサイトでもこれらの表記をわざわざ頭文字のみで伝えているところがあります。例えば『エメラルド、LGダイヤモンドネックレス』や『ルビー、MDダイヤモンドリング』など紛らわしい表記をしているところもあるので注意しましょう。

 

工業製品である合成ダイヤモンドに資産価値はない

工業製品に資産価値はない

さて最後に警告すべき点として挙げること、それは合成ダイヤモンドには資産価値は一切ないということです。天然ダイヤモンドと同じ組成、特性を持ち、他の合成宝石以上に製造コストが高い点は事実ですが、あくまで工業製品としての位置づけであり、そこに希少性は一切ありません。

いくらグレードの高い合成ダイヤモンドであっても、天然と同じ価値はありませんし投機対象にもなりません。(ただしブランド名が付けば価格に反映されることもあります)

しかし最近は希少価値がない合成ダイヤモンドに対して、「合成ダイヤモンドは資産になる」など行き過ぎた表現や価値観を植え付けている例もチラホラと見受けられるようになりました。今後より普及するであろう合成ダイヤモンドビジネス、そこに取り巻く倫理環境の整備は消費者への販売プロセスにも求められます。

 

まとめ

  • 天然と同様の結晶構造、特性を持つ
  • 天然と合成ダイヤモンドの判別は可能
  • 世界水準で合成ダイヤモンドへの関心が高まっている
  • エシカル、サスティナビリティが殺し文句

消費者心理で考えればグレードの低い天然ダイヤモンドを購入するなら、ギラギラに輝くトップクオリティーの合成ダイヤモンドでプチプラ優雅を楽しみたいという方もいるでしょう。また自宅、ちょっとしたパーティーで楽しむならば天然ダイヤモンドを身に着けたい、遠出の旅行や海外に行く場合は合成ダイヤモンドなど、TPOに合わせた使い分けをするのも賢い棲み分けかもしれません。

合成ダイヤモンドは資産価値こそありませんが、ジュエリーの楽しみ方、宝石の愛で方は十人十色。そして合成ダイヤモンドには、人間が追い求めてきた叡智のロマンが詰まっているのも事実です。その見方は様々ですが、天然と合成の線引きをしっかり分け、ファッションとして合成ダイヤモンドを楽しむ時代は既に到達しています。

業者側に求められるのは合成ダイヤモンドの知識を啓蒙し共有できるか?その定義をうやむやにせずに伝えられるか?合成だからこそ、定義が曖昧だからこそ、売りっぱなしにならないコミュニケーションの場が差別化の第一歩になるのかもしれませんね。

 

 

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