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合成宝石の裏に錬金術あり!錬金術と宝石の繋がりとは?

2023.07.19 2023.07.19

合成宝石の裏に錬金術あり!錬金術と宝石の繋がりとは?

ホムンクルス(※1)に賢者の石……、これらはいわゆる錬金術に関連する人物、用語です。ファンタジー好きの方ならば、ピピンと好奇心というアンテナが反応することでしょう。

(※1)パラケルススが生成に成功したと言われる、いわゆるフラスコの中で作られた人造人間のこと。

 

人類の夢、ファンタジーであった非金属をゴールドに変えることは叶いませんでしたが、錬金術は宝石学の発展に貢献してきた事実もあります。

 

非現実的すぎるテーマかもしれませんが、斜め横もしくは真裏から宝石を捉えてみると、人類が育んできた錬金術の「知」をそこに感じるはず。

 

科学的に宝石を理解すること、消費者の立場に立って宝石のイロハを伝えることは大切ですが、たまには予定不調和な宝石の歴史を学んでみるのも面白いものです。

 

錬金術を難しく考えず、肩の力を抜いて読んでいただければ幸いです。

はじめに

錬金術には知と神秘で彩られた歴史があります。黄金を創出するということは王侯貴族と錬金術師が追いかけた未知への挑戦であり、宇宙の神秘を解き明かす第一歩でした。

 

錬金術と聞いても漠然とし過ぎていて、イマイチピンと来ない方が多いと思います。宝石と何の関連があるのか分からないという方も少なくないはず。

 

今回のコラムでは錬金術の哲学、歩みから宝石を合成するまでの功績にまで触れていきたいと思います。

錬金術とはそもそも何なのか?

錬金術の定義を広い目線で語るとすれば、地球という規模を越えた大宇宙の起源や生成に迫る科学の追求です。壮大過ぎますね。

 

私たちは錬金術を疑似科学の象徴とみなし、学問というよりは怪奇なオカルトと捉えてしまうことが多いと思います。しかし、その歴史を紐解くと興味深い事実が判明します。

 

ここではその歴史を振り返りながら、錬金術が持つ神秘的要素、宝石に関する伝説に触れていきたいと思います。

 

錬金術の歴史

アイザック・ニュートンがしたためた賢者の石のレシピ

現在までにさまざまな宝石が人の手で開発、合成されてきましたが、錬金術こそ合成宝石の祖といえます。人類の歴史の中で錬金術が担った役割は大きく、自然物質の構成と、それらがどのように変化していくのかを探求していくこと。これが錬金術の哲学です。もちろんそこには神秘学を背景にした宗教思想なども絡んでくるわけですが……。

 

錬金術(alchemy)という言葉はアラビア語の「al-chymia」に源流を持ち、この単語は「金属を融かす」という意味を持ちます。物質の変容を解き明かすことが錬金術の目的といえますが、そこには「オカルトを解明する」という秘教的な意味合いも含まれており、賢者の石なる霊薬や不老不死の薬の開発にも繋がります。

 

錬金術はエジプト、ギリシャ、ローマやアラビア半島などさまざまな地域で独自に発展し、独自の文明開化に大きく寄与していくのです。所説ありますが、その起源はエジプトのアレクサンドリアだったという節が有力です。(アジアやアフリカ、コロンブスが上陸する前のアメリカ大陸でも同様の知識があったとされています)

 

たとえ非金属を金に変換することはできなくとも、昇華や溶解、発酵、蒸留、また不可思議で魔術的な言い伝えとともに、冶金技術も大きく発展していきました。

 

非金属から金を製造できる可能性を危惧したローマ皇帝ディオクレティアヌスは、錬金術がローマ帝国の混乱につながることを懸念し、それに関する文書を全て焼却したという話しは有名です。

 

しかし、それにもかかわらず錬金術はローマ帝国で1世紀以上も研究され、人類の文明においては、15世紀以上の長きにわたり、未知なる物質の変容の解明に対峙してきたのです。

 

なお、黄金に変換させるための霊薬「賢者の石」は未知の物質ですが、アイザック・ニュートンがしたためた賢者の石のレシピが書かれた原稿は現存しています。それはオークションにかけられ、フィラデルフィアのケミカル・ヘリテージ財団が落札しオンラインでも公開されています。

 

エメラルドに秘められたファンタジー

'The Emerald Table of Hermes'. Wellcome M0012393.jpg
[[File:’The Emerald Table of Hermes’. Wellcome M0012393.jpg|thumb|エメラルド・タブレットの想像画(17世紀のドイツの錬金術師・医師ハインリヒ・クンラート(英語版)『永遠の智恵の円形劇場』1602年より)]]

この手の物語を真剣に伝えても、やはり空想上のロマン、おとぎ話として片づけられてしまうので、どうにもムー的な語り口になってしまいます 笑。さて、冗談はさておき、皆さんは錬金術を語る上では欠かせないエメラルドの物語をご存知でしょうか?

 

ラテン語で「Tabula Smaragdina」(Emerald tablet)と呼ばれるエメラルド板のことで、学問・商業の神であり叡智を伝えるギリシャ神話の神ヘルメスが記したとされる文書のことです。壮大過ぎるストーリーに彩られたエメラルド板は、紀元前4世紀にアレキサンドロス大王が発見したといわれています。

 

もちろん現存はしていませんし、そもそも存在していたのかも疑問ですが、このエメラルド板にはミステリアスな口調で、世界の創造と錬金術の根本を成す原理が記述されていたそうです。

 

どんな言葉が記されているのかといいますと、

  • 「父は太陽、母は月。胎内に吹く風がそれらを育み、乳母は大地なり。それが全世界における全ての完成の父である」
  • 「下にあるものは上にあるもののごとく、上にあるものは下にあるもののごとく、それはいつなるものの奇跡を成し遂げるためにある」

ただし、これらはダイレクトに錬金術成功の手順を示したものではないため、多くの錬金術師がその理論を独自に解釈をしていくのです。

 

紀元前にギリシア語で書かれた原文を後世に日本語へ訳したからか、もしくはそもそもの原文が難解であるからかは分かりかねますが、真剣に理解しようとすると哲学に精通した人でない限り頭痛がとまりません……。

 

上記で触れた文節はエメラルド板に記されていたといわれるものをごく一部抜粋したものに過ぎませんが、このエメラルドが何を言わんとしていたのでしょうか?そのヒントは「風」にあります。

 

つまり、風は象徴的な存在であり、それがどんな物質にも変容していくということです。それがザ・錬金術の核心につながる金属理論に行き着きます。金属の溶解や精製、つまり錬金術や現代における科学の原点となるような奥義が、エメラルド板には刻まれていたというのです。

 

あぁ、難しいですね。

合成宝石の起源となった錬金術

合成宝石の起源となった錬金術

ここでは宝石の合成との関連について考察していきます。なかなか興味深い史実なので、飛ばさずに読んでいただければ嬉しいです。

 

錬金術から発展した技術が合成宝石である

宝石に引き寄せられてしまうのは人類の性。今に始まったことではなく、はるか遠く昔から宝石は人々を魅了し、一種の欲望の対象でした。たとえば皇帝ネロはエメラルドの眼鏡をかけ、エメラルドの緑を通して周囲を見渡していましたし、マヤ文明ではヒスイを歯に埋め込み権力の象徴としていたそうです。

 

これは現代の宝飾シーンでも同様のことがいえますが、古代においても宝石は需要と供給の関係にありました。政治的な権力やステータスシンボルといった側面での需要が特に高く、それでも手に入らない場合はどうしたのか?

 

つまり天然の宝石を模した模造宝石を作る試みを何世紀もの間、トライ&エラーを重ねてきたのです。前項でも少し触れましたが、錬金術の中で育み技術が発展してきた一例が宝石の合成なのです。

 

なお、宝石に対する熱処理は紀元前から知られており、プリニウスの『博物誌』にも熱処理に関する記録が記されています。10世紀に書かれたと言われるライデンパピルスやストックホルムパピルスにも熱処理の方法が記されています。特にギリシャ語で書かれたストックホルムパピルスは宝石学という観点だけでなく、錬金術の技術を今に伝える最古の本としても知られています。

 

錬金術師が宝石を合成できなかった理由

今では当たり前のようにダイヤモンドが実験室で合成され、それに準ずる屈折率、輝きを持つダイヤモンド類似石が登場しました。遥か昔はダイヤモンドの8倍の価値があったルビーでさえも、そのクオリティーはピンキリに合成できています。

 

しかし、錬金術師といえど、それぞれの宝石がどんな化学組成で構成されているかは解明できませんでした。合成宝石の基盤となる宝石学が発展したのは18世紀以降……。実際に天然宝石と同じ化学、物理的性質を持つ合成宝石の誕生は19世紀まで待たなければなりませんでした。

 

古代に宝石の化学成分を定量的に分析できていれば、合成宝石はより早期に製造できていたはずですし、錬金術という枠内でよりエキサイティングな結果が期待できたかもしれません。

 

実際に錬金術師が宝石を合成することはできませんでしたが(ガラスなどの模造宝石などは除く)、その成功の可否についてを確かめる術はありません。なお、ガラスに関しては古代エジプト時代から高価な天然宝石の代替として利用されてきました。

 

錬金術師が開発したレシピは後世に伝えていくようなものではなく、狭いサークル内でしか共有されず、なおかつ彼らが残した書物は破壊され、今に伝わるものはあくまでごく一部に過ぎません。

 

もしかしたら、古代〜中世にかけて、ある特定の錬金術師が宝石の合成に成功していた、そんな可能性も無きにしも非ずなのです。

まとめ

『宝石と錬金術』に関してまとめると、

  • 錬金術とは万物の根源を明らかにし、その変容を突き止め、世界・宇宙・人間の成り立ちを研究する学問である。
  • 錬金術(alchemy)はアラビア語の「金属を融かす」という意味の単語に由来する。
  • 宝石の需要を満たすため、模造宝石を作る試みを何世紀もの間続けてきた。
  • 宝石の化学組成を解明する事はできず、錬金術師が宝石を合成することはなかった。
  • 錬金術の中で技術が発展してきた一例が宝石の合成である。
  • 蒸留、冶金技術などの技術を通し、現代科学の発展にも貢献した。

実際に錬金術というものはこういうものだと枠内に定義付けることは難しく、宗教的側面や黒魔術などとの関連性もあるため、正当に錬金術が科学の一つとして評価されにくいのが現状です。

 

『博物誌』と同じく、どこからどこまでが実在の話なのかは不明ですし、哲学的な側面も強いため正直とっつきにくい分野かもしれませんね。

 

ここでは宝石というテーマに絞っているので、錬金術が基礎になり生まれた物質(王水や硫酸など)や医学分野への応用などは省いていますが、ヘルメス主義(※2)に影響された錬金術が、現代科学に大きな影響を及ぼした歴史、実績は否定できません。

(※2)古代エジプトやギリシア、ペルシャなどに伝わる、密教や哲学、錬金術を含む古代の神秘思想の混合体。

 

元素の発見にも繋がった錬金術は化学の発展とともに18世紀には消滅する運命を辿りました。しかし、錬金術の試行過程が合成宝石の開発につながったとも言えるわけです。そう考えると、ネガティブに捉われがちな合成宝石を見る目も少し変わりそうです。

 

 

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