アメリカ南西部、ツーソンで行われる世界最大のジェムショー、通称「ツーソンジェムショー」では例年パールに大きな期待が寄せられていますが、2024年も例外ではありませんでした。
南洋パール、淡水パール、タヒチアンパールなど様々なパールがありましたが中でも興味関心が高かったのが、暖色のグラデーションが美しいコンクパール、なめらかな縞模様を持ったメロパール、ガラスのような表面を持つクオホッグパールなどの「真珠層を持たない真珠(Non-Nacreous Pearls=非真珠層真珠)」です。
真珠層を持つ真珠との違いは何なのでしょうか?今回は、陶磁器のように美しい「真珠層を持たない真珠」の特徴や魅力をお伝えします。
真珠層を「持つ真珠」と「持たない真珠」の違い
真珠は海水・淡水に生息する母貝の中で形成されます。母貝の中に真珠層を分泌し、そこに微生物のような異物が混入した際に真珠が形成されます。異物が偶然混入したものが天然真珠、人工的に挿入したものが養殖真珠になるのです。
全ての母貝に真珠層が分泌されるというわけではなく、分泌されなかった母貝で形成された真珠が「真珠層を持たない真珠」となります。
「真珠層を持つ真珠」の定義
「真珠」とは生きた貝の体内で形成される代謝生産物であって、かつその外観し得る部分の構成物質が真珠母貝の貝殻真珠層と等質であるものをいう。例外的に真珠層構造を持たないものもある。
皆さんが真珠と聞いて思い浮かぶのがこちらの真珠でしょう。真珠特有の虹色を呈す「オリエント効果(真珠効果)」が見られます。アコヤ真珠、南洋白蝶真珠、タヒチアンパール、マベパールなどはこちらに分類されます。
「真珠層を持たない真珠」の定義
巻貝や二枚貝等の天然真珠
偶発的な契機により、ピンクガイ(Strombus gigas)やハマグリ等の真珠層を持たない貝の体内で真珠袋(パールサック)が形成され、その中で形成されたもので、表面全体が非真珠層で覆われているもの。
真珠層を持つ真珠の母貝が二枚貝であることに対し、非真珠層真珠の母貝は巻貝のものと二枚貝のものがあります。真珠層を持たないので、虹色に輝く「オリエント効果」が見られません。
真珠層を持たない母貝で真珠が形成されること自体が大変珍しいので、どの非真珠層真珠も希少価値が高いです。後の章でご紹介する、コンクパール、メロパール、クオホッグパールなどは「真珠層を持たない真珠」に分類されます。
コンクパール
引用:GIA The Appeal of Non-Nacreous Pearls
コンクパールは「ピンク貝」という食用の大型巻貝を母貝とする真珠です。ダイオウイトマキボラを母貝とする「ホースコンクパール」もあります。
産地
カリブ海全域、バミューダ諸島、西インド諸島、メキシコ湾
特徴
- 平均的なサイズは3〜8mm、まれに13mm以上のものもあり
- 楕円形のものが多い
- 淡いサーモンピンク~赤、淡い黄色~オレンジ色
- 軽い遊色効果に似た曲線模様の“火焔(かえん)模様”があるものもあり
価値基準
ピンク貝はそもそもの数が少なく、真珠ができる貝も限られるため希少価値が高いパールです。形成されるコンクパールの数はピンク貝千個から1万個にひとつと言われています。
2009年に養殖に成功したとの発表もありますが、養殖産業化するほどの数が出ていないのが現状です。
ほとんどのコンクパールが0.2~0.3ctと小粒なので、0.5ct以上のものは評価が高くなります。また、肉眼で火焔模様がはっきりと見えるものや、「濃いいちごミルク色」「ラズベリーレッドのカラー」は最高品質とされています。
メロパール(メロ真珠)
引用:GIA The Appeal of Non-Nacreous Pearls
食用として採取される巻き貝のハルカゼヤシガイを母貝とする真珠で、別名メロメロパール(Melo melo Pearl)ともいいます。
産地
南シナ海、インド洋、オーストラリア北部の太平洋
特徴
- 平均的なサイズは7〜11mm、まれに30mm以上のものもあり
- 球形や楕円形
- 淡いオレンジ色、黄色、灰色、茶色
- 波状構造による“火炎模様(フレーム)”が見られるものもあり
価値基準
引用:GIA “Gran Dama” Brooch Featuring Large Melo Pearl、中心のメロパールは98.67カラット
養殖が困難であるメロパールは完全な天然真珠のためとても希少価値が高く、市場に出ることがあまりありません。価値が高いカラーはオレンジ色で、表面が滑らかで美しいものが最高級とされています。
世界的に有名なクリスティーズのオークションでは、1999年に約23.0 × 19.35 mmのメロパールが8700万円で落札されました。
参考:CHRISTIE’S A MELO PEARL
クオホッグパール
引用:GIA The Appeal of Non-Nacreous Pearls
ホンビノス貝(Mercenaria mercenaria)を母貝とする真珠で、クアホッグパールとも呼ばれます。
ライラック色のグラデーションとガラスのような光沢が美しい“ゴラッシュ(Golash)ブローチ”は、国際真珠博覧会の一環として2001年から2008年まで世界中を巡回しました。
産地
アメリカ東海岸(大西洋岸)、特にニューイングランド地方の諸州の海岸沿い、カリフォルニア州の太平洋沿岸
特徴
- 平均的なサイズは3〜8mm、まれに14mmを超えるものもあり
- 紫、白、紫と白のグラデーション、茶色、黒
- 表面が陶磁器のように美しい
- 中心部の色が薄く円周部の色が濃くなる「アイ効果」があるものもあり
価値基準
引用:GIA The Appeal of Non-Nacreous Pearls
ハマグリ漁業の副産物として偶然に見つかることがあるクオホッグパールは希少性が非常に高く、真珠が採れる貝は5000個に1個ほどです。その中でもジュエリーに適したパールとなるともっと数は少なくなります。
理想的なライラック色のクオホッグパールが見つかる確率となるとさらにまれで、200万分の一の確率です。小粒のものが多いので、大きくて形が良く、色の純度がより高いものが最高級とされています。
まとめ
- 真珠には「真珠層を持つ真珠」と「真珠層を持たない真珠」がある
- 「真珠層を持たない真珠」は真珠光沢が見られない、養殖が困難なので希少価値が高い
- コンクパールは3~8mm、ピンク・赤・黄・オレンジ、火焔模様を持つものもある
- メロパールは7〜11mm、オレンジ・黄・灰色・茶、火炎模様を持つものもある
- クオホッグパールは3〜8mm、紫・白・紫~白のグラデーション・茶・黒、アイ効果があるものもある
「真珠層を持たない真珠」は真珠特有の虹色を呈すオリエント効果を持っていませんが、フレームや火焔模様、表面の陶磁器のような美しさに惹かれるファンが大勢います。
また、世界一の展示会であるツーソンでピックアップされたという事は、今後日本の宝飾市場でも需要がアップする可能性があります。
どれもレアな真珠ですが、特にメロパールとクオホッグパールに出会える機会はそう多くないでしょう。展示会や中古市場で見かけた際はその美しさに注目してみてください。
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