「ツーソンジェムショー」は世界最大の宝石・鉱物の展示会です。世界各国から多くの宝飾業界の人々が集まり、宝石、鉱物、化石、アートなどを売買します。2024年冬に行われたツーソンジェムショーの状況とトレンドをお伝えします。
ツーソンジェムショーとは?
商材:宝石、鉱物、化石、アート
場所:アメリカ・アリゾナ州ツーソン
会期:1~2月、8~9月
会場数:約50
ベンダー(販売業者)数:4000
動員数:約6万人
ツーソンジェムショーはアメリカアリゾナ州のツーソンで毎年行われている宝石・鉱物の展示会(ミネラルショー)のこと。主催はAGTAと呼ばれるアメリカ・カナダの宝石の卸売業者による団体で、世界最大級の展示会です。メインのショーの開催は2月中旬ですが、「サテライトショー」と呼ばれる販売会は1月下旬に開始します。
会場は、日本で開催されるミネラルフェアのように一箇所に集まっているのではありません。ホテルや空き地を利用してテントが設置され、たくさんのブースが立ち並びます。街のいたる所が会場になるので、会期中のツーソンの街は宝石を売る人と買う人で埋め尽くされます。
ツーソンジェムショーは、知識豊富な出展者と最高品質の宝石が集まる場。毎年参加する人にとっては新年のパーティにも似た感覚で、年に一度ここでしか会えない他国の人々とのコミュニケーションを大切にビジネスをしているそうです。
2024年のツーソンジェムショーの様子
多くの出展者が「例年より客足は少ないように見えたが、ビジネスは順調だった」と語っており、バイヤーも大胆に多くの商品を購入していったようです。しかし、昨今の不安定な世界情勢や全体的なコストの高騰、以前よりはるかに高い配送料が出展者の頭を悩ませています。
そんな中でも、ピンクやブルーなど鮮やかなカラーの色石を売買する様子が多く見られました。
ジェムショーで見られたトレンド
2024年のツーソンジェムショーでは、マンダリンガーネット、メレラニ産ミントガーネット、蛍光性のあるマラヤガーネットなどのカラフルなガーネットや、六角形のヘキサゴンカット、カイトカット、ポートレートカット、シールドカットなどのファンシーカットの宝石などに注目が集まりました。
カイトカットとは?
その名の通り、カイト(凧)の形をしたカットです。上から見た形が、菱形の二辺を長くしたもの、五角形の二辺を長くしたものなどがあります。すっきりとしたカットで、カイトシェイプとも呼ばれています。
似た形でシールドカットと呼ばれるものもあり、こちらはシールド(盾)のような形をしています。カイトカット同様にそのスタイリッシュなデザインがじわじわと人気を博しているようです。
ポートレートカットとは?
「A Gem Cutting Style Gets a Reboot」New York Times
日本ではスライスカットやスライスダイヤモンドという名前で知っている、という方が多いかもしれません。その名の通り、宝石を薄くスライスしたようなカットです。かつてはポートレートのカバーとして、ダイヤモンドやクリスタルを使用していたことから「ポートレートカット」と呼ばれています。
宝石内のインクルージョンなど天然の美しさや神秘さを楽しむことができ、また、カラット当たりの見た目がはるかに大きく見えるというメリットも持ち合わせています。
トレンドカラー「ピンク」
ジェムショーのトレンドには「バービーコア」や「ピーチ ファズ」などピンク色を表すキーワードが挙がりました。バイヤーからも「ピンクの色石を購入した」との声が多かったようです。その一例をご紹介します。
・ピンクとオレンジが混ざり合った、スリランカ産非加熱パパラチアサファイア
・ピンクとレッドが混ざり合った、クッションカットのパパラチアサファイア
・ホットピンクや、マゼンタ~ソフトピンクのトルマリン
・ピンク味の強いルビー、サファイアなど
「バービーコア」とは?
バービーコア(Barbiecore)とは、全身ピンクでコーディネートした“バービー人形”にインスパイアされたファッションのことです。イタリアのファッションブランド「ヴァレンティノ」が2022年秋冬コレクションに鮮やかなピンク一色のファッションを発表し、ピンクがトレンドカラーとなりました。
また、2023年7月に公開された映画『バービー(原題)』が世界中でヒットしたことも後押しとなり、現在海外セレブやファショニスタたちの間で大きなトレンドとなっています。
「ピーチファズ」とは?
引用:Pantone Color of the Year 2024
毎年、その年の流行カラー「カラー・オブ・ザ・イヤー」を発表するパントンが、2024年のカラーとして発表したのが「ピーチファズ(Peach Fuzz)」です。ピーチファズは、ピンクとオレンジを混ぜた、温かみと高級感がある優しい色合いです。
なお、2023年のカラー・オブ・ザ・イヤーには「ビバマゼンタ(Viva Magenta)」というカラーが選ばれました。ビバマゼンタは2023年のツーソンジェムショーのトレンドカラーとなっており、カラー・オブ・ザ・イヤーとジェムショーのトレンドカラーが密接に関係していることが分かります。
関連記事:【2023ツーソンで注目】マゼンタカラー(赤紫)の宝石6選
2025年から合成宝石の展示会出品を禁止に
AGTA(米国宝石貿易協会)は、2025年のツーソンジェムショーから、ラボで製造した合成宝石のルースと、合成宝石ルースを使ったジュエリーの展示を禁止すると宣言しました。これは「ラボグロウンダイヤモンド」にも適応します。
その理由は「ラボグロウンダイヤモンドが市場に及ぼす影響を考慮して、混乱を阻止するため」、そして「バイヤーに“天然石のみ購入できること”を承知して、安心して購入してほしい」との意向からです。
メーカーが必要に応じて合成宝石を販売するのは、開示する限り問題ありません。しかし、2025年以降のジェムショーでは合石宝石の販売ができなくなります。
参照元:AGTA Bans Lab-Grown Gemstones from Shows
まとめ
2024年のツーソンジェムショーで見られたトレンドはこちら。
- カラフルなガーネット
- 六角形のヘキサゴンカット
- カイトカット
- ポートレートカット
- シールドカット
- トレンドカラーは「ピンク」
毎年、年の初めに開催されるツーソンジェムショー。世界最大規模の宝飾展示会では宝石業界の動向がわかるので、世界中から注目を集めています。2024年のツーソンで注目されたアイテムは、今後、日本の宝石業界でも注目される可能性があります。
そして2025年からの「合成宝石の展示会出品を禁止」というニュースが日本の展示会にも影響を与えるのか、こちらの動向も要注目です。
参考サイト
Rapaport Perusing the Annual Arizona Gem Shows
CGL Gemmy 147 号 「第55回 ツーソン・ミネラルショー」
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