
前回のコラムでは世界最古の養殖真珠である「仏像真珠」から、カール・フォン・リンネが挑戦した養殖真珠についてお伝えしました。
パールの養殖プロセスが確立したのが20世紀初め。実はこの真珠の養殖技術が発明される数百年以上も前から、模造真珠の開発が行われてきました。職人たちがしのぎを削り「どうすればコストを押さえて真珠様物質を製造できるのか?」を研究していたのです。
今回のコラムでは養殖真珠を超える歴史と挑戦を繰り返してきた、模造真珠の歴史について解説していきたいと思います。
養殖真珠の歴史を振り返る!連載コラム
【2】真珠の歴史を振り返る!「模造パール開発の歴史」編(現在の記事)
古代ローマから開発?模造真珠が歩んだ歴史
高貴な王侯貴族のみ着用が許された歴史のある真珠ですが、実は古代ローマ時代(紀元前509年~紀元前27年)から庶民向けに廉価版の模造真珠が製造されてきました。その歴史は古代ローマ時代から20世紀まで途切れることなく続きます。
ここでは模造真珠にどのような素材が使われたか、どのような工夫が凝らされたのかを紹介します。
模造真珠はガラスをベース製造されていた

ルビーやサファイアがガラスで代用されたように、模造真珠もガラスをベースにして制作されました。ガラスにある種の加工を施すことで、真珠のような奥深いテリを表現しようと試みたのです。
時代によって製法は異なりますが、例えば古代ローマ時代には丸いガラスを銀でコーティングして焼き上げることで、独特の色合いを持たせた模造真珠を製造していました。
そして13世紀頃、主にガラス工房で模造真珠の研究と製造が活発になります。ガラス工房では、①粉末ガラスを丸める②ビーズ状にする③特殊加工を施す、このような工程で模造真珠が製造されました。
その際に、カタツムリの粘液(乾燥すると硬くなる性質を持つ)やワックスなどが混合されることもありましたし、吹きガラスが使われることもありました。また時代が経つにつれて、白色の鉱物である「アラバスター」を丸く研磨したタイプの模造真珠も登場するようになります。
これらの模造真珠は天然に近い審美性とコストパフォーマンスを実現し、天然真珠を扱う業者は「真珠の価値が損なわれる」と警戒を強めたほどでした。
真珠の色と光沢を再現する「秘密のエッセンス」

真珠光沢を出すためにパールエッセンスとして魚の鱗(ウロコ)が素材として使われていました。鱗に含まれる「グアニン」と呼ばれるたんぱく質を再結晶させると、真珠のような美しい光沢を見せるからです。ただしパールエッセンスを抽出するためには数万匹の魚が必要になったと言います。エッセンスとして使用されたのは以下のような魚です。
① ブリーク(コイ科)
② ローチ(コイ科)
③ ニシン(ニシン科)
④ デース(コイ科)
エッセンスとして利用するには、汚れを除去した魚の鱗を水に浸した後、攪拌(かくはん)した副産物を希釈させます。それをガラスに塗布することで真珠のような光沢が生まれるのです。魚の種類によって繊細さや反射が異なり、ニシンは特に美しい銀色を呈し、ブリークは最も望まれる鱗として珍重されました。
魚の鱗を使用する方法は15世紀には知られた技術になっており、現代でも模造真珠を製造する伝統的手法として利用されます。この製法は反射率が高く天然真珠の外観をコスパよく再現できるため、養殖真珠以上に研究が進んだ分野でもあります。コスチュームジュエリーで人気の「ミリアムハスケル」の模造真珠もこの技術を改良したものです。
フランスの模造真珠作家が残した製造技術
17世紀に生きたとあるロザリオ職人の男性は、後世に残る模造真珠の制作技術を残しました。彼が作り出したのは、吹きガラスに接着剤を用いて鱗由来のパールエッセンスをコーティングする製法です。この製法の特筆すべきポイントは以下の3点です。
- パールエッセンスが剝がれにくくなるように内側にコーティングする
- ガラス内部にワックスを含入してパールと同じの重さを付加する
- 天然真珠と似た光沢と反射を持つブリーク(コイ科)由来のパールエッセンスを使用
時代によって使用するパールエッセンスや核となるガラスは異なりますが、彼の技術は後世にしっかりと伝わり、チェコやイタリアそして日本を含む様々な地域の模造真珠産業の礎になっていきました。
模造真珠の製造が発展した国々

模造真珠が最も活発に製造された国はガラス産業が発達した国です。例えば前述のチェコやドイツなどが挙げられます。またイタリアの場合はヴェネチアのムラーノ島にあるムラーノガラス(※1)がその代表例であり、モダナイズ化されたパールエッセンスによるガラスビーズが作られました。
(※1)ヴェネチアのムラーノ島で発達したガラス工芸品。1000年以上の歴史を持ち「ヴェネチアンガラス」とも呼ばれます。
現代でも愛用されるスペイン発の模造真珠とは?

地中海の潮風が心地よいマヨルカ(マジョルカ)島は、模造パール製造の一大産地として知られています。モダンアクセサリーとしてもよく目にする「マヨルカパール」。マヨルカパールとは一体どんな真珠なのか?秘密のマテリアル制作について考察していきたいと思います。
100年以上の歴史を持つマヨルカパール

長い模造真珠の歴史の中でも商業化に成功した国があります。それが19世紀後半にスペインのマヨルカ(マジョルカ)島で誕生したマヨルカ(マジョルカ)パールです。ヨーロッパで培われた伝統技術により製造されており100年以上の歴史があります。
なお、マヨルカパールはあくまで「マヨルカ島で生産された模造真珠」のことを意味し、島の近辺で取れる二枚貝によるパールを意味するのではありません。
マヨルカパールの特徴はテリ・カラー・形・サイズなどのクオリティーが均一に揃うこと、そして耐久性とコストパフォーマンスを兼ね備えている点です。パールの弱点である耐久性をカバーすることでメイクや汗の汚れに強くなり、ファッションジュエリーとして楽しみやすいというメリットがあります。
マヨルカパールの製造方法
マヨルカパールの製法は、幾多にも重ねたパールエッセンスをガラスビーズにコーティングし、最後の仕上げとしてポリマーコーティングを施すという流れです。この製法により耐久力を高めているのです。
魚の鱗由来のパールエッセンスを利用した模造真珠は、1890年に特許申請され現在は機械化された製造環境を備えています。なお、マヨルカパールのパールエッセンスは「地中海由来の有機物成分を使用」とありますが、その詳細については企業秘密なのだそうです。
まとめ
- 模造真珠はガラスをベースにして制作されていた
- 真珠の色と光沢を再現するために魚の鱗をパールエッセンスとして使用した
- 17世紀のフランスで開発された製法が模造真珠の礎になった
- スペインのマヨルカパールは商業化に成功し現在も販売されている
今回は天然真珠を養殖する、そんな錬金術的な切磋琢磨の裏で商業的に売買されてきた模造真珠の歴史について触れてみました。偽物と本物、模造真珠と養殖真珠には大きな隔たりこそありますが、真珠という美しき宝石が一般層に普及するには、模造真珠という素材が大きな役割を果たしているのです。
魚の鱗に真珠様の光沢を見せる成分が含まれているとは想像が付きませんが、日本でも模造真珠の製造、販売は行われているので、パール好きの方にとって今回のコラムは興味深いものになったのではないでしょうか?
次のコラム:真珠の歴史を振り返る!「日本人が開発した真珠養殖」編
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