「メディチ家が、ダイヤモンドの毒で宿敵を暗殺していた!?」美しい宝石にはいわくつきの由来や、伝説に彩られた医薬面での効能、伝承があることをご存じでしょうか?単なる言い伝えだと無視はできない数々のミステリー、興味と好奇心の扉を開く、そんな宝石の異なる側面を見てきましょう。
宝石の医薬のルーツを探る
ダイヤモンドを筆頭にした石の効能は鉱物学が発展していないかった時代に大きな盛り上がりを見せ、特に中世には錬金術の関心と共に石の効能や薬効が注目されました。宝石として愛される希少性、美しさ、硬度が伴う石であれば、特別な医薬効能や特性をみせると考えられていたようです。
現代でもマッサージにクォーツの一種を利用したり、ヘマタイトをネックレスとして身に着けてその磁性を利用したり、さらにパワーストーンとして石の内なるパワーを開運に利用するなど、宝石が持つ力は私達にとっても身近なものです。
そんな石の力の原点として伝わる、医薬効能や伝承を検証していきましょう。荒唐無稽で呪術的な言い伝えも少なくありませんが、人類と宝石の切っては切れない深い関係を迷信と片づけてしまうのは早すぎるかもしれません。
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考え方のベースとなった4つの要素
宝石の効能に関しては、多角的な理論や空想によるアプローチが存在していますが、まずは考え方の由来となった4つの要素を解説していきます。
4つの元素
古代ギリシャで提唱された世界を構築する「火・土・水・風」の4元素。これを基礎として、石が存在するための元素が霊魂を持つことで魔力に繋がると考えられました。
星の動き
石が生じる地質や、土を作り天体を回す地球の神秘。カードで人の人生を占うように、星の動きが宝石にある種の作用を生むと考えられていました。
石の構成成分
宝石を一つの混合物質と考えると、ハーブが化学的アプローチで薬効を証明できるように、宝石も化学・物理的特性が効能に関係すると考えられました。
宝石の色彩
青、赤、黄色に緑…宝石のカラーが意識に影響を与え、心理面に作用する効果を生みだすと考えられました。
宝石が医薬、迷信的効能を発揮する手段
宝石の効能を引き出すためには、どのように宝石と向き合っていけばいいのかを簡単に説明していきましょう。
内服・外用する
内服する場合は宝石を研磨して残ったパウダー状のものを水などで服用する、外用の場合は直接石を身体の部位に置くことで効果が現われると考えられています。
身に着ける
黒太子のルビー(実はスピネルであることが分かっている) 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
宝石によって薬効や邪眼避けとして身に着ける方法は異なります。例えばサファイアは、司教が天と繋がるために人差し指に身に着ける必要があるとされていました。
また、イギリスの大英帝国王冠の正面中央に据えられた黒太子のルビーはかつて甲冑にセットされており、エドワード3世の命を守ったことから「どんな危険も回避する」という伝承に繋がりました。
宝石別の医薬効能まとめ
ここでは古来から存在が認められてきた複数の宝石を例に、予定調和な美しさを超越した石の隠れた効能を解説していきます。
ダイヤモンド
ダイヤモンドは毒抜きの効果があるとされた一方、10世紀には粉末化したものを服用すると毒が回るとされていました。ダイヤモンドパウダー自体は言わずもがな無毒ですが、粉砕したものでも鋭いエッジがあり内臓を傷つけることから有毒と伝わったと推測できます。
錬金術の巨匠パラケルススはダイヤを盛られて死に、カトリーヌ・ド・メディチはダイヤモンドパウダーを振りかけた食物を市民に振舞い、暗殺に適する毒性かをテストしたとも伝わっています。ダイヤモンドパウダーの代わりにヒ素が盛られたり、研磨師がケチったために代わりにロッククリスタルのパウダーを渡され、暗殺が失敗に終わったこともあったそうです。
エメラルド
ベリル属は「目」と関連の深い宝石であり、とくに新緑のエメラルドは宝石研磨師の眼精疲労を取り除き視力を回復させる宝石でした。古代ローマの皇帝ネロは近視だったためエメラルドを磨いた眼鏡レンズを身に着けていたという伝説は、その通説にロマンを与えてくれます。
一方遥か東の国では、エメラルドを粉にして服用することで苛立ちを抑え消化を良くする、毒を断つ効能があると信じられ重宝されたそうです。西では視力、東では精神・解毒と異なる薬効を見せ、いかに宝石が国の文化や価値観で異なる作用をみせたかが分かりますね。
ルビー
ルビーは挽いて粉にしたものを内服することで癲癇(てんかん)や喀血(かっけつ)を防いだと言われています。また口にそっとルビーを含むと仁丹(じんたん)のごとく、不快な口臭が去り幸福感で包まれるという伝承が伝わっています。
サファイア
サファイアは「ヒアキントゥス」と呼ばれ、聖母マリアに繋がる宝石として司教の指輪にセットされたほか、牛乳に浸して飲み干すことで毒や感染症を防ぐ効能があるとされていました。牛乳ではなく、パウダー状のものを酢に混ぜて飲むというパターンも伝わっています。
アメジスト
アメジストは服薬する方法での薬効は伝わりませんが、その色合いからぶどう酒と結び付けられ、酒に酔わないお守りとして身につけられてきました。また、石にサン&ムーンを彫刻することで邪眼や魔女の魔力から身を守ることができると言われ、ブラッドストーンやカルセドニーなどと同様にインタリオ※として加工されました。なお陽刻であるカメオの場合、不可思議な魔力や効能が発揮される石は少ないようです。
※図像を浮かび上がらせる沈み彫りの技法のこと。(=陰刻)反対に図像を出っ張らせた彫り方のことをカメオ(=陽刻)という。
ガーネット
ロードライトガーネット
「燃える石炭」とよばれたガーネットは、旧約聖書の中でノアが静けさに包まれる夜の海を照らす灯として利用した伝説が残っています。中世の時代には疫病を防ぐお守りとして利用されました。また、アルマンダイトやパイロープなどの妖艶な赤いガーネットは、そのカラーから止血作用や炎症を抑える効能があると信じられていました。
まとめ
- 宝石の医薬的な効果は元素や色、星の影響に由来し、科学的な関連があるものと迷信に分かれる
- ダイヤモンドは粉末化したものを服用すると毒が回る
- エメラルドは視力回復、苛立ちを抑え消化を良くする
- ルビーは癲癇(てんかん)や喀血(かっけつ)を防ぐ
- サファイアは聖母マリアに繋がる宝石であり、毒や感染症を防ぐ
- アメジストは酒に酔わないお守り
- ガーネットは疫病を防ぐお守り、止血作用や炎症を抑える
感性の扉を開いて宝石の薬効、効能を探り出すと、どの宝石にもこじつけにも思えてしまう伝承が多くあることに気づかされます。それらはアラビア人により東方からもたらされ、それがキリスト教や錬金術などの神秘学と結びつき、西欧で中世に大きな発展をもたらしました。
科学的性質から説得力がある薬効を持つ宝石もあり、それは視覚効果によるものであったり、神経系に作用する原始的な民間療法としても捉えることができます。これらの付属的な薬効や効能は宝石としての価値を高めるだけでなく、神羅万象や目に見えぬものへの憧れ、そして帰依(きえ)に貢献し、令和の現代にも繋がっていくのでした。
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