
分かっているようでイマイチ理解しきれないのが宝石のカットです。形状から何となく名前を理解している方は多いと思いますが、ジュエリーを愛でるためにもカットの定義をクリアにすることは大切なことです。
今回はスタンダード&イノベーティブな研磨方法を軸に、混同しやすいファンシーカットとファンタジーカットの違いと魅力を紹介していきます。
ファンシーカットとファンタジーカットの違い
まずファンシーカットとファンタジーカットの違いですが、ファンシーカットはラウンドブリリアントカット以外の研磨方法。ファンタジーカットは鏡面効果による異なる反射と屈折による輝きを見せる「フリーカット」と呼ばれる種類の研磨方法です。
| ファンシーカット | ラウンドブリリアントカット以外の研磨方法 |
|---|---|
| ファンタジーカット |
鏡面効果による異なる反射と屈折による輝きを見せる |
ファンシーカットの定義と特徴について
ルースや宝飾品を見ていても見慣れないファンシーカット。ブリリアントカットやハートシェイプはよく聞くけれど、一体ファンシーカットとは?ここでは抑えておきたいファンシーカットの基本を解説していきます。
ファンシーカットの定義

宝石の研磨は大きく分けて「カボション」と「ファセットカット」に分かれ、ファセットカットから『ブリリアントカット』と『ステップカット』に分かれます。
ファンシーカットとは特定の形を指すのではなく、ラウンドブリリアントカット(クラウン側に33、パビリオン側に25、計58面を持つ)を除いたカットの総称です。
つまり、ブリリアントカットでも円形以外のカットはファンシーカットであり、円形であってもブリリアントカットではない石はファンシーカットになります。
ファンシーカットの特徴
ファンシーカットは個性やオリジナリティーを追求する研磨であり、最近ではブライダルリングにも利用され人気を博しています。様々な色石にファンシーカットが施されており、ジュエリーやルースを楽しむ選択肢の幅が広がる研磨です。
また、ラウンドブリリアントカットと比較して見た目が大きくみえること、そしてコストパフォーマンスが良くなることは大きなメリットと言えましょうか。
ダイヤモンドのラウンドブリリアントカットであれば「4C」のカット項目で品質を評価することが可能ですが、ファンシーカットの場合は国際的なカット基準による評価システムは完備されていません。
ファンシーカットの種類を解説

上段左から:トリリアント、オーバル、オールドマイン、プリンセス、アッシャー、クッション、ペアシェイプ
中段左から:マーキス、ラウンドブリリアント、ハートシェイプ、ロゼンジ
下段左から:バゲット、エメラルド、テーパー
しつこいようですが、ファンシーカットはラウンドブリリアント以外のカットという適用範囲が広めの研磨なので、そのカットの種類は思った以上に多いです。ここではそのいくつかを紹介していきたいと思います。
ラウンド以外のブリリアントカット
マーキス(中段 1番左)
箱舟型の縦長のカットでタイトな印象を与え、光の反射が強く出る女性らしいカットで、センターから脇石まで様々なデザインで多用可能。
ハートシェイプ(中段 左から3番目)
歩留まりが悪いものの、ブライダルリング等に人気のあるフェミニンなハートシェイプ。バランス感覚を取るのが難しく、希少性が高くなります。
ペアシェイプ(上段 1番右)
プックリした洋ナシ状の研磨で、膨らみを調整することで異なる印象を与えます。
オールドカット
ローズ
三角のファセットを付けた膨らみのある研磨で、通常はパビリオンがなく、見た目のカラットよりも大きく見えるのが特徴です。
オールドマイン(上段 左から3番目)
17世紀に開発された研磨方法で、ラウンドとクッションを合わせたようなカット。キューレットが切り落とされ、厚みのある石に研磨された古のカットです。
オールドヨーロピアン
クラウン面が高く、キューレットを切り落としたラウンド状のブリリアントカットの原型と言えるカット法です。テーブル面が狭く、ラウンドブリリアントカットのような輝きはありませんが、明暗がハッキリしているのが特徴的なカットと言えます。
ステップカット
バゲット(下段 1番左)
ファセットがガードルに対して平行、階段状に研磨され、角が削られていない長方形のカットです。
エメラルド(下段 中央)
バゲットカットに似ていますが、四角を削り落としているのが特徴です。割れやすいエメラルドに適したカットと知られ、正方形、または長方形に研磨されます。
アッシャー(上段 右から3番目)
エメラルドカットを正方形にカットするため、パビリオン側のガードルからの研磨がキューレット部の1点に集まります。ロイヤルアッシャー社によって開発され、シンメトリーな輝きと透明度が引き立つカットとして人気です。
ファンタジーカットとは?ルースよりも彫刻向き?

プリズムジュエルス オレゴンサンストーン ファンシーカット 7×15.5mm 2.13ct
ファンシーとファンタジア、響きも似ている二つの言葉。しかしファンシーカットとファンタジーカットは明確な違いがあります。
より宝石に芸術性を付加したファンタジーカット、ここではファンシーカットとの違いからその美美美な世界観を覗いてみたいと思います。
美しさを追求したファンタジーカットとは?
「ファンタジーカット」とは、ファンシーカットやラウンドブリリアントカットの枠に入らない、輪郭やファセットの形状・数が限定されないタイプのカットです。
研磨師のオリジナリティや想像力から開発された新しい研磨方法で、宝石の裏面に溝や模様などを刻むことで、異なる反射と屈折が色と光で再現されます。凹面のファセットが宝石をより生き生きと輝かせ、宝石が持つ屈折率以上の輝きが目に届きます。
他のカットと異なり、長さ・幅・深さを重視し数学的なアプローチとデザイン力が大切になるのがファンタジーカットの特徴と言えます。デザイン性が高いカットなので、彫刻作品を見かけることもあります。
キャンバスとなる宝石のカラットが大きければ大きいほど表現力が広がるため、高額なダイヤモンドやコランダムなどではなく、比較的安価なクォーツやアクアマリンなどが研磨対象として好まれます。
特にカラーゾーニング(※1)が美しいアメトリン、トルマリン、銅内包によるアベンチュレッセンス(※2)や多色が特徴的なオレゴンサンストーンなどの宝石は審美性に優れるだけでなく、大きめの重量でも産出するので彫刻作品としてよく見られます。
(※1)同じ宝石内で不均一で異なる色合いをがある部分のこと。
(※2)宝石内のインクルージョンに光が反射して、キラキラ輝いて見える光沢のこと。
ファンタジーカットの生みの親

ファンタジーカットの原型になるものはドイツのイーダーオーバーシュタインで生まれ、1900年始めにはパビリオンに凹面のカットを入れる研磨が行われていました。
その流行は50~60年代に起こり、ファンタジーカットの生みの親と呼ばれたカッターがムーンシュタイナーカットを発明したベルント・ムーンシュタイナー氏です。
スミソニアン博物館に所蔵されている10,363カラットのアクアマリン原石を用いたドン・ペドロ(Dom Pedro)はファンタジーカットの存在感をこの世に知らしめた大作として知られています。
世界で活躍する研磨師を紹介

ファンタジーカットは世界に散らばる研磨師によって日々新しいカットが開発され、中には商標を登録する業者、研磨師も少なくありません。ベルント・ムーンシュタイナー氏、その息子のトム・ムーンシュタイナー氏も優れた作品を残しています。
トム氏によるVisions in crystalという作品(画像左は)、ロッククリスタル、シトリン、スモーキークォーツ各々200カラットを、アルミニウムの支柱で支えたタワー状の作品です。透明なクォーツの壁を躍るようにスモーキークォーツが走り、まるで近代建築のようなモダンさを映し出します。
またアメリカ人カッターのマイケル・ダイバー氏は1994年にイーダーオーバーシュタインの権威あるGerman Awardを受賞し、ビジュアルバランスに優れたアシンメトリーな作品(画像右)が特徴です。216カラットのボリビアのアメトリンを利用した作品には、中空に浮かぶシャボン玉のようなくぼみがあり、それは「Dyber Optic Dishes」と呼ばれ、彼の代表的な作風になっています。
この他にもスペインのロシア人研磨師Egor Garvilenko氏はスペイン産スファレライトの研磨で名を馳せており、マドリードの博物館に彼の作品が展示されています。
まとめ
- ファンシーカットはラウンドブリリアントカット以外のカット
- ファンタジーカットは宝石下部に凹面の模様を入れ、鏡面効果を狙ったデザインカット
長くなりましたが、似て非なる二つのカット違い、魅力について解説してまいりました。ファンシーカットはより定番のジュエリーへの応用が効くデザインも多いですが、一方でファンタジーカットはルースは勿論のこと一つの彫刻作品としての認知が高くなっています。
なかなか高価でレアなカットも多いファンシー、ファンタジーカット、気に入った石があればそれはもはや一期一会。迷わずに清水から飛び込む勇気が必要になるのかもしれませんね。
未来宝飾マガジン編集部 監修
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