宝石にはインクルージョン（内包物）がつきものです。インクルージョンは宝石の透明度や見た目に影響を与え、価値を下げる要因となるため、一般的には「無傷の宝石が良い」と考えられがちです。しかし少し視点を変えてみると、インクルージョンはまるで「宝石の中に広がる小さな宇宙」。自然が偶然に作り出したミクロの世界が、独特の美しさを生み出し、一転して宝石の魅力にもなるのです。
さらに、ここ数年は宝石にも「個性」や「唯一無二」を求める傾向が強くなっており、宝石市場ではあえてインクルージョンのある宝石を買い付けするバイヤーやデザイナーも多くなっています。
本記事では、インクルージョンが美しさの一部となっている宝石にスポットを当て、その特徴や楽しみ方をご紹介します。
インクルージョンの楽しみ方
インクルージョンとは、宝石に含まれる様々な内包物です。気泡ができたり、ほかの鉱物が入り込んだものなど、肉眼で見えるものから顕微鏡でしか確認できないような細かなものまであります。
①ルーペで観察する
インクルージョンは肉眼では見えにくいこともあるので、10倍ルーペなどを使って観察すると面白さが倍増します。まるで宝石の中に小さな宇宙が広がっているような、不思議な世界が見えてきます。
②偶然の美しさを見つける
インクルージョンの形や配置は自然が作り出した偶然の産物。その中には羽のような模様、植物のような形、星や雪のようなものもあります。唯一無二の模様を見つける楽しさがあります。
③コレクションして楽しむ
インクルージョンのある宝石はそれぞれ個性が強く、コレクターの間でも人気があります。種類別に集めたり、似た模様をテーマに揃えたりして、自分だけのコレクションを作る楽しみがあります。
④身に着けて楽しむ
インクルージョンが入った宝石は、見る角度や光の加減によって違う表情を見せてくれます。リングやネックレスにして身につけることで日常の中でも自然のアートを楽しめます。
インクルージョンを楽しむ宝石8選
それでは、「インクルージョンを楽しむ宝石8選」をご紹介します。ぜひ、その魅力をじっくり味わってみてください。
シルキーサファイア、シルキールビー
シルキーサファイアとは、絹のような質感を持つ乳白色のサファイアです。ピンク、グリーン、パープル、レッド（ルビー）など、さまざまな色合いがあり、まとめて「シルキーサファイア」や「シルキールビー」と呼ばれています。通常のサファイアやルビーに比べて輝きが柔らかく、淡く優しいアンティーク調の色合いが特徴です。
この「絹のような質感」の正体は、針のように細長いルチルのインクルージョンです。肉眼では確認できませんが、顕微鏡で見ると無数の針状インクルージョンが広がっているのがわかります。
インクオーツ
内部にほかの鉱物や物質を取り込み形成されるクォーツを「インクォーツ」と呼びます。インクォーツとインクルージョンが合わさることで、視覚的には小宇宙を封じ込めたような印象を与えてくれます。
同じものが二つとない宝石なので、「誰も持っていない個性的な石を入手したい」という方におすすめです。インクォーツの中でも特に人気があるものをご紹介します。
| ルチルクオーツ | 多くみられるタイプ、針状の黄金色のルチルを内包している |
|---|---|
| パライバクオーツ | パライバトルマリンと同じカラーのギラライトを内包している |
| ガーデンクオーツ | 角閃石を内包し、自然の風景を閉じ込めたように見える |
| オイルインクオーツ | コールタールや原油を内包し、ブラックライトを当てると蛍光する |
| ハーレクィーンクオーツ | リモナイトを内包し、赤い花吹雪のようにきらめく |
| ファントムクオーツ | 水晶が成長過程で止まり再び成長する際に気泡や物質が混ざる、山のような模様が入る |
| エンハイドロクオーツ | 空洞内に水を内包しており、傾けると気泡がゆれる |
サンストーン
赤やオレンジ、黄色、褐色など、朝日のような温かな輝きが魅力のサンストーン。ムーンストーンやラブラドライトと同じく長石グループに属する宝石です。サンストーンにはさまざまな種類があり、銅を含むインクルージョンの有無や、透明感の強さ、「アベンチュレッセンス」と呼ばれるキラキラとした輝きを持つかどうかなどによってそれぞれ異なる魅力を放ちます。
インクルージョンが多いタイプは、スパンコールのようにきらめき、華やかな印象を与えます。一方で、インクルージョンの少ないタイプは、すっきりとした透明感とともに、涼しげで落ち着いた雰囲気を持っています。
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グランディディエライト
ほかのブルー系の宝石とはひと味違うブルーグリーンの独特なカラーが魅力のグランディディエライトは、非常に希少性が高くコレクターからも人気を集めている宝石です。強い多色性があり見る角度によって色の印象が変わります。鉱物の性質上インクルージョンやクラック（鉱物内部の亀裂）が入りやすく、細いチューブ状のものや淡いベールのようなインクルージョンを持つものがほとんどです。
一般的にインクルージョンが多いと透明度が下がり価値も低くなりますが、グランディディエライトはインクルージョンがあっても独特のブルーグリーンや神秘的な美しさを楽しめます。パステルカラーのものからしっかり色がのっているものなど色の濃淡が様々で、好みで選んだりグラデーションを楽しむことができます。
モスアクアマリン
深海を思わせる落ち着いた色合いが魅力のモスアクアマリンは、インクルージョンがまるで苔（こけ）のように見えることからその名が付けられました。霞がかった幻想的なインクルージョンは主にチタン鉄鉱によって構成されており、その含有量によって赤やオレンジ、あるいは黒っぽく見えることもあります。
落ち着きのある大人っぽいカラーが人気で、インクルージョンこそが魅力と言える、個性的な宝石のひとつです。その中でも、黒い鉱物が霧雨のように内包された石を「ブラックレインアクアマリン」といい、希少価値の高い種類となります。
ミルキーアクアマリン
ミルキーアクアマリンは青と乳白色が混ざり合った、まるで空の一部を切り取ったような淡いカラーのアクアマリンです。多くのインクルージョンを含むため、半透明から不透明のものがほとんどです。「澄み切った青空」のようなアクアマリンに対して、ミルキーアクアマリンは「ふんわりとした雲の合間から青空がのぞいている」ような、やわらかく幻想的な印象を与えます。
インクルージョンやクラックがあるため、一般的には通常のアクアマリンよりも価値は低めとされていますが、その可憐で優しい雰囲気と癒しの力から、パワーストーンとして根強い人気を誇る宝石です。
トルマリン
カラーバリエーションが豊富な宝石として知られるトルマリンは、インクルージョンを取り込みやすい性質があります。特に赤～ピンクのトルマリンはインクルージョンを含むことが多く、ルーペで観察すると気泡や液体が中に含まれている様子が確認できます。
トルマリンのカラフルな色合いにインクルージョンのスパイスが加わることで、宝石の美しさだけではなく、その長い成長過程をも感じることが出来るでしょう。見る角度を変えることでインクルージョンのきらめきが変わったり、色味の変化を楽しめることも楽しみの要素です。特に2色の色合いを同時に楽しめるバイカラー、3色のパーティーカラーの場合はより華やかな印象となります。
また珍しいタイプでは、チューブ状のインクルージョンが光を反射して猫の目のように輝く「キャッツアイ効果」を持つトルマリンも存在します。
パライバトルマリン
ネオンブルーの輝きが美しいパライバトルマリンは、発見されて以来、世界中の宝石ファンを魅了し続けています。パライバトルマリンの特徴のひとつが、多くのインクルージョンを含んでいることです。
ブルーグリーンの爽やかな色の中で、インクルージョンがきらきらと輝き、まるでシュワシュワと弾けるサイダーのような清涼感を感じさせてくれます。パライバトルマリンに含まれるインクルージョンは、美しさを損なうどころか、独特の輝きや色合いを引き立てる役割を果たしているとも言われています。
まとめ
- シルキーサファイア・シルキールビーは、淡く優しい色合い
- インクォーツは、多くの種類があり、小さな宇宙を封じ込めたような印象
- サンストーンは、きらめきの強いものと、涼しげで落ち着いたタイプがある
- グランディディエライトは、多色性があり神秘的な輝きを持つ
- モスアクアマリンは、幻想的で落ち着いた色合い
- ミルキーアクアマリンは、可憐で優しい雲のような色合い
- トルマリンは、多くがインクルージョンを持ち、キャッツアイ効果を持つものもある
- パライバトルマリンは、弾けるサイダーのような清涼感のあるインクルージョンが魅力
一般的には「欠点」とされるインクルージョンですが、本記事ではむしろ「魅力」として輝く宝石たちをご紹介しました。インクルージョンは、自然が偶然に描き出した造形美。世界にひとつだけの芸術作品のようなその表情に、自分だけの「小さな宇宙」を感じてみてはいかがでしょうか。
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