宝石の神秘、願いを叶えるパワーストーン。「なぜ宝石は不思議な力を持っているのか?」と誰しも考えた経験があるのではないかと思います。
そんな疑問に答えてくれる書籍があります。ティファニーの副社長を務めた鉱物学・宝石学の権威ジョージ・フレデリック・クンツ著の伝説的名著「宝石と鉱物の文化誌」です。その内容を紐解いてみましょう。
クンツ博士の経歴
By Unknown author – Yogo The Great American Sapphire, by Stephen M. Voynick, c. 1985, March 1995 printing, p. 32, Public Domain, Link
1858年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。幼い頃から鉱物に興味を持ち、10代で4000点以上の鉱物を集め、ミネソタ大学に売却しました。書籍と現地調査から独学で鉱物学を学び、知識力を買われてティファニーで仕事を得ます。知識と熱意により23歳で副社長に昇進。
世界各地で展示会や講義を行い、多くの文化・科学自然団体で役職を務め、科学と公共奉仕に専念した人生を送りました。生涯で300以上の記事を執筆し、没後90年以上経つ現在でも多くの書籍が出版されています。
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「宝石と鉱物の文化誌」とはどんな本?
鉱物学者の目線で書かれた、宝石の歴史をたどりながら当時の文化を解説する本です。古今東西の人々の宝石との関わり方、宝石にまつわる空想を解説するのが本書の目的です。
世界中の膨大な宝石に関する書籍を研究しつくし、迷信・伝説・護符などの役割をまとめた本書は現代のパワーストーンの考え方の元になっていると言われています。
2023年に出版された本書は、2011年刊の新装版になっています。翻訳は、占星術研究家で翻訳家でもある鏡リュウジ氏です。ページ数は300ページ余りとボリュームがありますが、専門書にありがちな難しい文章ではありません。宝石に興味のある方ならどんどん読み進めていけると思います。
「宝石と鉱物の文化誌」からパワーストーン思想を読み解く
本書を通して、古代から現代のパワーストーン思想につながった経緯を読み解いてみましょう。
護符と魔除け
普通の石にはない宝石の魅力は「色と輝き」です。輝く色石への素朴な感動が、太古の人々の心をつかんだのでしょう。人々は色彩豊かな輝く石を集めるようになりました。宝石が護符や魔除けとして使われていた例は、多くの古い書物に記されています。
なぜ護符や魔除けとして使われるようになったのかというと、何千年もの年月をかけて習慣やしきたりが発展してきたのでしょう。未開の人々には非常に複雑なルールがあったようで、現代人が完全に理解するのは難しいようです。中世(一般的に5〜15世紀頃)から17世紀頃までは、上流階級から下流階級までどんな身分の人も宝石が持つ護符の力を信じていました。
迷信と起源
古い時代の魔術師・預言者・占星術師は宝石を惑星・四季と関連付け、宝石が人の出生に影響を及ぼすと信じていました。誕生日や星座と関連した宝石を身に着けると災いから逃れられると発信したのです。これらの迷信は中世までは人々に何の疑いもなく受け入れられました。
しかし、ルネサンス時代(14〜16世紀)に探求精神が生まれると、宝石の持つパワーに何らかの裏付けを見出そうとする動きが見られるようになります。
17世紀初め、ドイツの医師であるデ・プートは著書の中で、宝石の持つ治癒力を絶賛しながらも、多くの迷信も含まれていると主張しました。宝石が人体に及ぼす影響を持っていることは多くの人の経験によって明らかにされていました。しかし、宝石が持っていない力まで「宝石のおかげだ」と信じる傾向に警鐘を鳴らしたのです。
占い
鉱物を使った占いに、水晶球を使った「水晶占い」があります。水晶球は中世の占いの道具でした。磨き上げられた水晶球の内側に映し出されたイメージが水晶占いの結果であるようです。すべては受け取り手の視神経の感受性によるものなので、占い師によって鑑定結果が異なります。
中世に水晶占いの道具として好んで使われたのは、磨き上げられたベリルでした。現代ではロッククリスタルが最適だとされています。日本でも優れたロッククリスタルの水晶球が多く作られています。
宗教的背景
古代から宝石は神々の装飾品として宗教的儀式に用いられてきました。石に護符の力があると信じてきたことが発展したためだと考えられています。宝石を宗教的な目的で用いた例は世界中にあり、さまざまな宗教の神々に捧げられました。
宝石が宗教的空想や迷信と結びつけられた考え方の名残は、現在でも残っています。旧約聖書の一つである「出エジプト記」(紀元前13世紀)には12個の宝石を取り付けた「大祭師の胸当て」について詳しく描かれています。
誕生石
生まれ月に割り当てた宝石「誕生石」を身に着けると特別な力を発揮すると言われています。起源は1世紀の歴史家ヨセフス、5世紀の聖ヒロニムスの著書にさかのぼります。二人の著書には、誕生石の起源が「大祭師の胸当ての12の石」「王道十二宮(占星術の12星座)」につながりがあるとはっきり書かれています。
このように古くから主張されていたにも関わらず、誕生石を着ける習慣は18世紀までありませんでした。なぜなら、中世では病気治癒など切実な願いを叶えるためには特定のひとつの石を身に着けることが勧められていたからです。切実な願いを叶える石の特別な力への信頼度が強すぎたため、誕生石と人との繋がりができるまでに長い年月がかかりました。
誕生石は「ヨハネ黙示録」に書かれた新エルサレムの城門の土台に飾られた宝石の順番を元に決まりました。当初は一人の人物が12の石を持ち「1月は1月の石、2月は2月の石」と月にちなんだ石を身に着けていましたが、やがて誕生月の石を身に着ける習慣に変化していきます。
誕生石の習慣に目をつけたのは、18世紀にポーランドに移住してきたユダヤ人でした。誕生石を身に着ける風習は瞬く間に広まり、現代では世界中で信奉者を集めています。
関連記事:誕生石には意味がない?誰が決めたの?誕生石を保つ意味について
パワーストーンブームの始まり
書籍に書かれていた事柄ではありませんが、パワーストーンのブームについて、ご説明します。日本でも諸外国と同様に、古代から鉱物には力があると信じられていていました。不思議な力を持つ鉱物を総じて現代では「パワーストーン」と呼んでいます。なお、パワーストーンという言葉は日本だけで使われているようです。
パワーストーンブームの始まりは1970年代のアメリカ。ヒッピー族の生活に鉱物が取り込まれ、鉱物にヒーリング効果があると解釈されたことが始まりです。そして1980年代後半にニューエイジムーブメントが日本に到来。ほとんど需要がなかった鉱物が注目を浴び、パワーストーンブームとなりました。
終わりに
- 「宝石と鉱物の文化誌」の著者はティファニーの副社長を務めたジョージ・フレデリック・クンツ
- クンツ博士は10代で4000点以上の鉱物を集めた鉱物学・宝石学の権威
- 「宝石と鉱物の文化誌」は鉱物学者の目線で世界中の宝石に関する迷信・伝説・護符をまとめた書籍
宝石や鉱物ははじめから願いを叶えるパワーストーンだったのかというと、そうではないのかもしれません。人々が長い年月を費やし築いた文化が作り上げたのでしょう。人々は太古から宝石を身近に感じ、いつの時代も大切にしてきたことがわかりました。
読み応えたっぷりの書籍「宝石と鉱物の文化誌」のほんの一部を取り上げてご紹介しました。宝石がお好きな方なら楽しく読める書籍なので、ぜひ機会がありましたら読んでみてくださいね。宝石への理解が深まり、もっと宝石が好きになると思いますよ。
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