100年以上前の作品から現代のものまで、推理小説には宝石やジュエリーが登場する作品が数多くあります。それは一体なぜでしょうか?本記事では、推理小説で宝石が多く用いられる理由を探り、宝石が登場する作品とその描かれ方について紹介します。
推理小説に宝石・ジュエリーが登場するのはなぜ?
推理小説に宝石やジュエリーが用いられる理由は、大きく分けて4つあります。ひとつつずつ解説していきます。
- 象徴性と魅力がある
- 物語にスリルを与える
- トリックに利用しやすい
- 美しさが読者の関心を引く
象徴性と魅力がある
宝石やジュエリーは、古くから富や権力、美しさ、贅沢の象徴とされてきました。推理小説の中で登場すると、登場人物の身分や背景などを一瞬で示し、物語の雰囲気を豊かにします。例えば、宝石の所有者が高貴な家柄であったり、資産家であるといった設定が、キャラクターの階級や社会的な位置づけを読者に示す役割を果たすのです。
物語にスリルを与える
高価で貴重な宝石は盗まれる可能性が高く、犯罪の動機になりやすいものです。美しい宝石が盗難や詐欺、すり替えといった犯罪のきっかけとなることで、読者にサスペンスを感じさせ、物語を盛り上げます。また、宝石が失われたり見つかったりする過程で物語にスリルが増し、推理小説の謎解き要素を強調する役割もあります。
トリックに利用しやすい
宝石やジュエリーの形状、色、材質などが、推理小説において巧妙なトリックや伏線として利用されることが多いです。宝石の隠し場所、すり替え、偽物と本物の見分け方など、物語の中で複雑なトリックを演出する際に活用されます。このように、宝石が事件の鍵として登場することが多く、ミステリーの展開にスリルをもたらします。
美しさが読者の関心を引く
美しい宝石の魅力が読者の興味を引き、イメージしやすく、想像力を掻き立てる効果があります。また、宝石の持つ背景や歴史が物語に深みを与える場合もあり、歴史的な逸話や伝説が絡むとさらに読者の好奇心を刺激します。
推理小説に登場する宝石、物語の中で宝石の役割は?
推理小説に登場する宝石にスポットを当て、宝石の特徴、作品のあらすじ、物語の中でその宝石がどのように描かれているかをご紹介します。
ダイヤモンド
ダイヤモンドは、他のどの鉱物よりも硬く、強い輝きを放つ宝石で、紀元前から現代に至るまで世界中の人々を魅了し続けています。永遠の愛の象徴として、婚約指輪や結婚指輪に用いられています。
江戸川乱歩 著「怪人二十面相」 あらすじ
神出鬼没で変装の名人である怪盗「怪人二十面相」が、さまざまな手口で宝石や美術品を盗み出しますが、名探偵明智小五郎と少年探偵団がその行方を追い詰めていくスリリングな物語です。
「余がいかなる人物であるかは、貴下(きか)も新聞紙上にてご存じであろう。貴下は、かつてロマノフ王家の宝冠(ほうかん)をかざりし大ダイヤモンド六個を、貴下の家宝として、珍蔵(ちんぞう)せられると確聞(かくぶん)する。余はこのたび、右六個のダイヤモンドを、貴下より無償にてゆずりうける決心をした。近日中にちょうだいに参上するつもりである。正確な日時は追ってご通知する。ずいぶんご用心なさるがよかろう。」
物語の中での役割 大怪盗が狙う宝物
「怪人二十面相」で登場するダイヤモンドは、怪人二十面相が狙う貴重な宝石として描かれています。この場面では、二十面相がダイヤモンドを盗むために大胆な計画を立て、さまざまな変装やトリックを駆使して周囲を混乱させます。
アレキサンドライト
アレキサンドライトは、カラーチェンジ効果のある代表的な宝石です。太陽光や蛍光灯の下では青~緑色、白熱灯やろうそくの火の下では赤~紫色に見え、色が劇的に変化するほど価値が高くなります。
江戸川乱歩 著「緑衣の鬼」 あらすじ
ある資産家の家で起きた殺人事件を皮切りに、次々と怪事件が発生し、犯人の狙いや正体に多くの謎が残ります。名探偵明智小五郎が、緑衣の鬼の不気味な計画を追い詰め、事件の真相を解き明かします。
「でもね、いくら探偵さんでも、こればかりは気づかなかったでしょう。ほら、これよ。」彼女は左手の薬指にはめた大きなアレキサンドライトの指環を見せた。
物語の中での役割 探偵の目をもくらませる宝石
昼と夜で色が変わるという特徴を持つアレキサンドライトは、物語の中で不気味で神秘的な象徴として登場人物に影響を与えます。事件の鍵を握るアイテムのひとつであり、登場人物たちにさまざまな疑念や緊張をもたらす存在として物語を彩ります。
トルマリン
トルマリンは結晶の両端にプラスとマイナスの電極を持ち、熱が加わると静電気が発生するので和名を「電気石」といいます。存在しない色はないといわれるほどカラーバリエーション豊富な宝石です。
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江戸川乱歩 著「孤島の鬼」 あらすじ
主人公とその友人が、主人公の婚約者が残した謎を追い、孤島に隠された恐ろしい秘密へとたどり着きます。彼らが直面するのは、狂気と怪奇が渦巻く孤島でのスリリングな展開で、物語は次第に不気味で予測不可能な展開を見せます。
若い私たちは、子供が指切りをするようなまねをして、幼い贈り物を取りかわしたものである。私は一カ月の給料をはたいて、初代の生れ月に相当する、電気石をはめた指環を買い求めて、彼女に送った。
物語の中での役割 愛しい人へ贈る指環
最愛の人に贈った電気石(トルマリン)は物語の重要な場面で描かれます。その不思議な性質や色彩が登場人物たちに奇妙な影響を与え、島の神秘性をさらに高めています。
アクアマリン
プリズムジュエルス アクアマリン サンタマリアカラー 2.18ct ブラジル産
アクアマリンは、エメラルドやモルガナイトと同じベリルの鉱物の一種です。青~青緑色の海を思わせるやさしい色合いを持っています。
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コナン・ドイル著「緑柱石の宝冠」 あらすじ
ある銀行家が名探偵シャーロック・ホームズのもとを訪れ、顧客から預かった「緑柱石の宝冠」が壊され、宝石がいくつか盗まれたと訴えます。王冠は極めて価値が高く、国家的にも重要な意味を持つものであるため、銀行家は家族が犯人ではないかと疑い、ホームズに助けを求めたのです。
この物語で登場する「緑柱石」はアクアマリンを指します。
大型の緑柱石が三十九個もちりばめてある。金の彫物だけでも、値のつけられぬほど高価なものだ。どれほど低く見積もっても、わたしが要求した金額の二倍の値打ちはあるだろう。これを担保として預けるつもりだ。
物語の中での役割 値がつけられない宝物
緑柱石(アクアマリン)は、この事件の核心にある象徴的なアイテムで、権力や富を象徴するものとして描かれ、登場人物たちの欲望や疑念を引き起こします。緑柱石をめぐる出来事が、物語全体に緊張感をもたらし、ホームズの推理を引き立たせています。
ガーネット
ガーネットとは、化学組成が似た鉱物のグループ名で、さまざまな種類があります。一般的に赤いイメージが強いですが、緑、オレンジ、黄色、ピンク、紫、茶色、透明など、豊富なカラーバリエーションが存在します。ただし、唯一「青」は存在しないとされていたのです。
コナン・ドイル著「青いガーネット」 あらすじ
クリスマスの時期にある男が落とした帽子とガチョウが事件の発端となります。ガチョウの胃の中から非常に珍しい青い宝石が見つかりますが、それは本来存在しないとされていた青いガーネットでした。名探偵シャーロック・ホームズはその謎を解明し、宝石の持ち主や事件の真相を追い求めます。
この宝石は、発見されてからまだ二十年もたっていない。中国南部の厦門川(あもいがわ)の岸で発見されたものだが、ルビーのような赤色でなく青いことを除くと、あらゆる点でガーネットの特徴をそなえていることで有名なんだ。ところが、発見されてから年も浅いのに、すでに不吉な歴史を刻みつけている。
物語の中での役割 美しさゆえに不吉な事件を引き起こす
幻の青いガーネットがクリスマスの時期に盗まれ、偶然にもガチョウの体内で発見されるという謎めいた形で登場します。その希少性と美しさが、事件の背後にある人々の動機を浮かび上がらせる重要な鍵として描かれています。
なお、「青いガーネット」が出版された1892年には幻とされていたブルーガーネットですが、時代は流れ、90年代になると赤紫から青の変色をみせるカラーチェンジガーネットが発見されました。青いガーネットは現在では「幻」から「レア」として認知されつつあります。
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ムーンストーン
ムーンストーンは、フェルスパー(長石)の鉱物グループの中で、アデュラレッセンスという光学効果を示す宝石で、月の光を思わせるやわらかい輝きを持っています。
ウィルキー・コリンズ著「月長石」 あらすじ
インドの寺院から盗まれた伝説の宝石、月長石が中心となるミステリー小説です。ある若い女性の誕生日に月長石が贈られますが、その夜に宝石が謎の失踪を遂げ、周囲の人々が次々と疑われます。物語は、数々の視点から描かれる証言を通じて真実が徐々に明らかになっていきます。
月の満ちかけにつれて、その光沢もうつり変わるという言い伝えから、その宝石は当初より「月長石(ムーン・ストーン)」と名づけられ、インドでは、今もその名で呼ばれている。
物語の中での役割 月の満ち欠けに従う石
月長石(ムーンストーン)は物語の中心的な存在として、神秘的で不吉な雰囲気をまとった宝石として描かれています。その美しさや希少さが登場人物たちの欲望や恐れを引き出し、ストーリーに複雑な人間ドラマやミステリーの緊張感をもたらします。
アメシスト
アメシストはクォーツ(水晶)の一種で、神秘的な紫色が特徴的な宝石です。古来より高貴な宝石とされ、キリスト教の司教が身に着けるなど、特別な意味を持っていました。
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モーリス・ルブラン著「黄金三角 怪盗ルパンシリーズ」 あらすじ
「黄金三角」は怪盗ルパンシリーズの作品ですが、ルパンが主役ではない異色の探偵小説です。物語の中心にいるのはフランス人の医師、彼は謎の宝石「黄金三角」に絡んだ重大な秘密に巻き込まれます。物語の終盤でルパンが登場し、策略を巡らせて敵対する勢力を出し抜き、勝利に貢献します。
「判事、これはいったい、どういうことでしょう。紫水晶の珠(たま)をにぎって殺されたのは、エサレ氏ひとりではないのですぞ」
物語の中での役割 事件解決の鍵となる石
この物語の紫水晶(アメシスト)は重要な秘密や権力が絡むシンボル的なアイテムで、所有者に不吉な運命をもたらす存在とされ、そのミステリアスな力や呪われたような性質が物語の緊張感を高めています。ルパンは、紫水晶を巡る陰謀を解き明かし、物語を展開させます。
まとめ
宝石が登場する推理小説には、作品の緊張感や奥深さを際立たせる力が秘められています。推理小説の中の宝石はその美しさや価値から、人々の欲望や秘密、時には人間関係までを浮き彫りにし、物語に独特の魅力を与えてきました。これからも新たな推理小説が生まれる中で、どのように宝石が登場し、どんな役割を担っていくのかを楽しみにしたいですね。
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